路線バスは「乗客」が自ら身を守らなければ「車内事故」は避けられない! 運転士の努力だけではどうにもならない現実とは
バス車内での事故はとくに注意している
バス、とくに市街地を走る一般路線バスでは交通環境が複雑なこともあり、運転士はより周囲に目を配り、日々事故防止のための安全運転を心がけている。事故というと、外的要因、つまりバスの周囲を走っているクルマや歩行者などとの接触や衝突などをすぐに思い浮かべがちだが、それ以上……というと少々表現に語弊があるが、いわゆる「車内転倒事故」という事案に対して、運転士はさらに細心の注意を払っている。 【画像】廃止が決まった日本で唯一の無軌条電車「立山トンネルのトロリーバス」の画像を見る たとえば、市街地を走っていたバスが脇から飛び出してきた自転車を避けるために急ブレーキをかけたとする。この場合、ブレーキ操作が間に合い自転車との衝突が回避できたとしても、車内に立って乗車していた乗客がいて、たまたまその瞬間つり革や握り棒をつかんでいなければ、かなりの確率で車内前方へ吹っ飛ばされる形で転倒してしまうことは容易に想像できる。 バス事業者にもよるが、最近では「最後列席の中央部には着席しないでほしい」と表示する車両が出てきている。最新型の車両ではその部分の座面に”こぶ”を設けて物理的に座ることができないようにしているケースもあるほど。 理由は、この席にきちんと着席していたとしても、最後列中央部の席の前は通路となっているので、やむを得ず急ブレーキをかけた場合には座っていても前方へ吹っ飛ばされる可能性が高いからである。
本当に危ないのは止まる寸前!
先日、朝早くあるバス停でバスを待っていたら、まだ道路が空いている時間帯にもかかわらず、目立って時刻表より遅れてバスが到着した。バスに乗ると、運転士は時間に遅れたことだけを詫びる車内放送をするだけであった。そして当日の昼ごろに同じ路線のバスに乗ると、運転士が「本日は車内転倒事故が発生しております」と車内アナウンスしていたので、筆者は「なるほど、遅れた理由はこれか」と察知した。 車内転倒事故でとくに気を付けるのは、高齢の乗客である。いまどきは高齢の人がバスに乗ってきたら、座席に座るまで発車しない(見切り発車しない)のは当たり前の光景だが、ときおり何らかの理由でなかなか着席してくれずに、運転士が困っているといったシーンにも出くわす。 なお、転倒事故は乗車よりも降車時のほうがよりリスクが高くなる。高齢の乗客のなかには降車するバス停にバスが完全停車する前から席を立ち降車扉に向かおうとする人がじつに多い。排気ブレーキなどを活用し、「なるべく足(フットブレーキ)に頼らず停める」というのが、プロのバス運転士と聞いたこともあるが、どうしても最後はフットブレーキに頼らざるを得ないので、車両が多少前のめりになってしまう。停まる寸前というのはかなりリスクが高いのだが、ブレーキを使うことで次第に速度も遅くなるので、「安全だ」と感じて車内を移動してしまう人がいるようだ。 ほかの車両との接触事故などで、バス側のダメージが少ないなか、バス側の乗客などにけが人が出るのは、こういった車内転倒事故と考えていい。また、着席していても前方席の背もたれに強くぶつかる危険もあるので、バスの座席に座るときには深く座ることを心がけてほしい。 台湾などのアジアの国のなかには、路線バスでも座席にシートベルトを用意しているところもある。昔は電車でも急ブレーキをかけると車内は大変なことになったが、最新型になるほど、不思議なほど違和感なくすぐ停車するようになった印象がある。しかし、バスは最新型であってもそうはいかない。 ただ、車内転倒事故を気にして急ブレーキをかけなければ、それこそ他車だけではなく歩行者や周辺の建物を巻き込んだ甚大な交通事故になってしまう。乗用車であっても、後席でシートベルトを装着せずに乗っているなか急ブレーキをかければ、後席乗員がフロントガラスに身体ごとぶつかることだって十分発生する(実際にこういった事故が何件もある)。 バスやトラックなど大きなクルマはなかなか急には停まれない。何かのきっかけで急ブレーキをかける可能性がある以上、つねに覚悟してほしい。そんな事情があるからこそ、運転士は事故防止のために万全な運転を心がけているのである。
小林敦志