試して分かった「Core Ultra 200V」の実力! Intelの新型CPUはゲームチェンジャーだと思ったワケ 現行ノートPCとの決定的な違いは?
SoC(CPU)の性能は「メーカー次第」
ここ最近、Intelのモバイル向けCPU/SoCは「標準消費電力(PBP:Processor Base Power)」と消費電力の「上限値」「下限値」を定めた上で、実際の消費電力設定はPCメーカーに“お任せ”している。つまり、同じCPU/SoCを搭載していても、メーカーやモデルによってパフォーマンスに差が生じうるということだ。 この点はレビュー機が搭載しているCore Ultra 258Vも例外ではなく、Intelが定める消費電力設定は以下の通りとなっている。 ・標準:17W ・下限:8W ・上限:37W 今回レビューしているZenbook S 14(UX5406)では、ユーティリティーアプリ「MyASUS」で冷却ファンの回転モードを設定できるが、ファン回転モードに応じてSoCの消費電力の下限/上限設定が変わるようになっている。具体的には以下の通りだ。 ・ウィスパーモード(最大ノイズ:25dBA) ・最小:12W ・最大:17W(純正標準値) スタンダードモード(最大ノイズ:32dBA) ・最小:17W(純正標準値) ・最大:22W パフォーマンスモード(最大ノイズ:44dBA) ・最小:24W ・最大:28W フルスピードモード(最大ノイズ:47dBA) ・最小:28W ・最大:33W 当たり前かもしれないが、より大きな騒音(≒ファン回転数)を許容するほど、消費電力(≒パフォーマンス)は向上する。ただ、一般的なユーザーはファンの回転数設定を行う機会は少ないと思われるため、今回のレビューでは特記のない限り「スタンダードモード」に固定してテストを行う。
ベンチマークテストで実力をチェック!
それでは、Zenbook S 14(UX5406)を通してCore Ultra 258Vの実力をチェックしていこう。 先述の通り、MyASUSでのファン回転設定は特記のない限り「スタンダードモード」とした上で、AC駆動の状態でテストを行う。Windowsの電源モードも原則として標準設定の「バランス」とした。あくまでも“素で”どこまで使えるのかを見るためだ。 CINEBENCH R23 まず、CPUコアの性能を確認すべく「CINEBENCH R23」を実行した。このテストは、Windowsの電源設定を「バランス」「トップクラスの電力効率(省電力重視)」「最適なパフォーマンス(性能重視)」を切り替えつつ実行した。以下の通りの結果だ。 ・マルチコア ・トップクラスの電力効率:7883ポイント ・バランス:8108ポイント ・最適なパフォーマンス:8087ポイント シングルコア ・トップクラスの電力効率:1877ポイント ・バランス:1875ポイント ・最適なパフォーマンス:1842ポイント バランスと最適なパフォーマンスは、誤差といえる範囲内に収まった。一方で、トップクラスの電力効率を選ぶと、ポイントはそれなりに下がる。 CINEBENCH 2024 続けて、CINEBENCHシリーズの最新版「CINEBENCH 2024」を使って、バランス設定時のAC駆動時とバッテリー駆動時のCPUパフォーマンスをチェックした。結果は以下の通りだ。 ・マルチコア ・ACアダプター駆動:492ポイント ・バッテリー駆動:389ポイント シングルコア ・ACアダプター駆動:119ポイント ・バッテリー駆動:70ポイント バッテリー駆動ではACアダプター駆動の6~7割程度のスコアとなっている。デフォルトでは、バッテリーの駆動時間を重視する電源チューニングになっているようだ。 PCMark 10の結果 CPUに特化したテストを終えた後は、総合的なベンチマークテスト「PCMark 10」を実行してみよう。 こちらはACアダプター駆動とバッテリー駆動のそれぞれで、MyASUSのファン回転設定を「ウィスパー」「スタンダード」「パフォーマンス」「フルスピード」の4つを切り替えつつテストを行った。Windows側の省電力設定は「バランス」で固定している。総合スコアは以下の通りだ。 ・ACアダプター駆動 ・ウィスパー:7090ポイント ・スタンダード:7142ポイント ・パフォーマンス:7162ポイント ・フルスピード:7294ポイント バッテリー駆動 ・ウィスパー:4557ポイント ・スタンダード:4887ポイント ・パフォーマンス:4940ポイント ・フルスピード:6794ポイント 基本的には、ファンの風切り音が大きくなるほどスコアが伸びるという感じだ。名前通り、フルスピードだとファンがかなり高速に回るため、静かな場所での利用には向かない。普段はスタンダードで使うのが吉である。 Core Ultra 200Vプロセッサは、全モデルがパフォーマンスコア(Pコア)4基+高効率コア(Eコア)4基の計8コア構成だ。しかも、Pコアではマルチスレッド機構を廃止している。しかし、PCMark 10のスコアを見る限り、競合の8コアCPUと比べてもAC駆動時の性能面では遜色ない。 ただ、先ほどのCINEBENCH 2024のスコアと同様に、バッテリー駆動になるとAC駆動の6~7割程度の性能となってしまう。とはいえ、MyASUSでファン速度をフルスピードに設定するとACアダプター駆動時の9割程度の速度は出るようになる。 本製品の場合、バッテリー駆動時でもパフォーマンスを引き出したいなら「ファン設定をフルスピードに」を忘れないようにしたい。 3DMark Core Ultra 7 258Vは、GPUとしてIntel Arc Graphics 140Vを統合している。そのパフォーマンスを確認すべく、「3DMark」の主要なテストを実施してみた。総合スコアは以下の通りだ。 ・Fire Strike(DirectX 11/フルHD):8433ポイント ・Fire Strike Extreme(DirectX 11/WQHD):4130ポイント ・Fire Strike Ultra(DirectX 11/4K):2213ポイント ・Time Spy(DirectX 12/WQHD):3946ポイント ・Time Spy Extreme(DirectX 12/4K):1955ポイント ・Solar Bay(軽量レイトレーシング):1万4767ポイント ・Port Royal(重量レイトレーシング):1796ポイント 以前、PC USERで掲載した西川氏の記事において、「Core Ultra 200VプロセッサのGPUは、内蔵GPUとしては結構高性能」と触れられていたのだが、ここまで性能が良いとは驚きである。どちらかというとピュアモバイル向けという製品特性を考えると、さらに驚いてしまう。 UL Procyon AI Computer Vision Benchmark Core Ultra 200Vプロセッサは、推論演算に特化したNPUを搭載している。これを生かしたアプリも、少しずつだが増加傾向にある。 そこでベンチマークテストスイート「UL Procyon」から、オブジェクト認識(コンピュータビジョン)を通して演算性能を確認する「AI Computer Vision Benchmark」を実行してみた。テストでは幾つかのAPIを選択できるが、今回はCPUコア/GPUコア/NPUコアの“全て”を比較する観点から「Intel OpenVINO」を使うバージョンを選択した。スコアは以下の通りだ。 ・INT8(8bit整数演算) ・CPU:213ポイント ・GPU:1313ポイント ・NPU:1739ポイント FP16(16bit浮動小数点演算) ・CPU:67ポイント ・GPU:886ポイント ・NPU:978ポイント FP32(32bit浮動小数点演算) ・CPU:66ポイント ・GPU:291ポイント ・NPU:計測不可(非対応) 基本的にはGPUが一番スコアが高い(≒演算が速い)と思いきや、整数演算と16bit浮動小数点演算ではNPUの方が良いスコアだ。AI処理演算の内容にもよるが、NPUにうまくオフロードできれば高速かつ電力消費を抑えて処理を行えるようになる。 UL Procyon AI Image Generation Benchmark 「NPUを搭載したということは、ローカルでも生成AIを動かせるのでは?」という人もいると思う。そこで、UL Procyonから画像生成AIのパフォーマンステスト「Image Generation Benchmark」を試した。 このテストはStablity AIが開発した「Stable Diffusion」を使って画像生成AIにかかる演算パフォーマンスをチェックする。テストはAIモデル(バージョン)と演算内容が異なる3パターン用意しているが、今回はCore Ultra 200Vプロセッサでも利用できる「Stable Diffusion 1.5」のINT8テストを実行した。結果は以下の通りだ。 ・GPU:2267ポイント ・NPU:2659ポイント 先ほどのコンピュータビジョンの整数演算テストと同様に、GPUよりもNPUの方がパフォーマンス面で上回った。整数演算を多用するタイプのAIであれば、NPUを活用することでGPUの負荷をオフロードできる上、消費電力も抑えられる。 PCMark 10 Battery Profile Test(Modern Office) CPUコア(とスレッド)の数の割に、Core Ultra 258Vの性能はそこそこに良いことが分かった。問題はバッテリーの駆動時間だ。公称値は先述したが、あくまでも“公称値”であって、実環境におけるバッテリー駆動時間はアプリの稼働状況や画面輝度などによって大きく変わりがちだ。 そこで今回はPCMark 10に内包された Battery Profileテストの中から「Modern Office」シナリオを選択してバッテリー駆動時間を計測した。少し“いじわる”をして、画面の輝度は100%としている。 公称でのバッテリー駆動時間があまりに長いため、テストは就寝前に始めた。約7時間30分後、起床してテストの進捗(しんちょく)を確かめてみるとバッテリーが半分も減っていなかった。「ぐっすり寝ても少しは残っているかな」とは思っていたのだが、想像以上の残量だ。 結局、残量100%から3%(強制休止状態)になるまでに掛かった所用時間は18時間19分だった。ACアダプター駆動時と比べて、ベンチマーク上の性能は設定次第で6~7割程度となるものの、オフィスワークで使うというシナリオでは大して問題にならないだろう。 今回は、画面輝度をあえて100%に引き上げてテストした。画面輝度を50~60%程度に抑えれば、バッテリー持ちは一層改善するだろう。