岸博幸「必要なのは“長く稼げる力”。中高年こそ“将来の自分”へ投資すべき」
2023年1月、多発性骨髄腫という血液のがんに罹患していることを知った岸博幸氏。余命10年を告げられた岸氏が、闘病の記録や今後の生き方、日本の未来への提案をつづった著書『余命10年。多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』を上梓。人生の期限が近づきつつある中高年が、今すぐに取り組みたいこととは⁉ 【写真】岸博幸「がん判明から1年が経ち、僕の余命は9年になってしまった」
“キレるオジサン”は今後ますます増える⁉
ここ数年、高齢者がキレる事件が目立つ。理由はそれぞれだろうが、「事件の背景から察するに、現状に対する不満や将来への不安があるのでしょう」と、岸氏は推測する。 「グローバル化やデジタル化が進んだ現代では、日本独自の終身雇用システムは崩れつつありますし、年功序列廃止を表明した大企業も少なくありません。僕はそうした流れには大賛成ですが、それで苦境に陥っている中高年がいるのも事実でしょう。 おまけに、リタイヤ後の頼みの綱となる年金は不安材料しか見当たらない。年金支給開始年齢が70歳に引き上げられるのも現実味が増してきましたし、支給額にしても、減ることはあっても増えることはないと思います。 となれば、わが身を憂い、社会に理不尽さを感じ、将来を悲観する高齢者はさらに増えるはず。街中に“キレるオジサン”があふれかえる危険性は、今後ますます高まるのではと、危惧しています」
少しでも長く稼げるよう、今から準備を
将来の不安は、経済力と直結している。お金がすべてではもちろんないが、ある程度の財力がなければ、日々の生活に汲々としてしまい、心穏やかにはいられまい。 「つまり、この先も幸せに生きるためには、戦略的に自分の“稼ぐ力”を強化し、長く稼げるようにする必要があるということ」と言いつつ、岸氏が披露してくれたのは、以前雑誌で対談した「八ヶ岳食工房」代表の加藤公貞氏のエピソードだ。 加藤氏は、長年音楽業界に従事し、敏腕プロデューサーとして名を馳せながら、50代半ばで早期退職し、信州八ヶ岳に生ハムやソーセージを製造する工房を設立した人物。 「その加藤さんが口にしていたのが、『会社勤めの場合は、自分の賞味期限を会社に決められてしまう。会社から、用無しだと言われれば、たとえ40歳でも賞味期限は終わり。でも、自営業なら、いつまで働くのかを自分で決められる』という言葉。 加藤さんはそれを念頭に、若い頃から時間と給料の一部を生ハムやソーセージづくりに費やし、おいしい生ハムづくりを研究してきました。そうやってセカンドキャリアに向けて着々と準備し、体力・気力がまだまだ充実している50代半ばで独立を果たしたのです」 定年後、黙っていても会社が天下り先を見つけてくれる時代は終わった。しかも、人生100年時代が現実のものになりつつある。これから先の人生を、自分らしく、楽しく生きるのに必要なのは“長く稼げる力”だろう。 「将来キレるオジサンにならないためにも、今すぐにでもセカンドキャリアに向けて自分に投資してほしいと思います。早いに越したことはないけれど、すでに40代、50代だからといってあきらめることはありません。これからの人生を考えれば、一番若いのは“今日”なのですから」 ※続く
TEXT=村上早苗