この水に100万市民の命がかかっていた…ローマ帝国の水道「驚愕の精密さ」
古代ローマの浄水システム
これとは別に、水に当然含まれていたであろう混入物に対しては、どのような対策がとられていたのだろうか。 たとえ導水路はトンネルや蓋で外部から遮断されていたとしても、水源や流路から土砂などが混入したはずである。これらの混入物は、ローマ市内に入る前に除去されなければならない。そのために使用されたのが沈澱槽であるが、当時はもちろん、現代の浄水場で採用されているような、薬品によって混入物を凝集させて粒径を大きくし、沈澱を促進するような方法は存在しなかった。 流水中の粒径や比重が大きな混入物は、流れが速くても沈澱槽に沈降するので除去できる。粒径や比重が小さな混入物に対しては、流れを遅くすることによって沈降を促進した。 たとえばユリア水道(前出の「ローマ水道11ルート一覧」参照)の沈澱槽では、水は入水口から順に4つの水槽を経て出水口側に流れ出ていくしくみになっていた。3つめの水槽から4つめの水槽に向かっては重力に逆らう上昇流になり、沈澱が促進される。沈澱槽にたまった混入物は、定期的に除去された。 さて、記事冒頭で古代ローマの建造物の中で圧巻は「水道」ではないか、と述べたが、水道に代表される大ローマ帝国の建築物の、今に残る美を支えたのがコンクリートといえるだろう。続いては、ローマのコンクリート工法について見てみたい。 ---------- 古代日本の超技術〈新装改訂版〉 古代世界の超技術〈改訂新版〉 ----------
志村 史夫(ノースカロライナ州立大学終身教授(Tenured Professor))