南葛SC WINGS、悲願のなでしこ昇格 躍進を生んだ「強さ」
関東女子サッカーリーグ1部の南葛SC WINGSは9日、茨城県つくば市のセキショウ・チャレンジスタジアムで行われた日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)の2部入れ替え戦で、つくばFCレディースに5―1で快勝した。2日に千葉市であった第1戦から連勝とし、悲願のなでしこ2部昇格を決めた。2021年に関東1部に昇格してから3年での快挙。その背景には、今季就任した松本彰監督(45)によるチームづくりがあった。 【写真まとめ】試合中も笑顔はじける南葛SC WINGSの選手たち WINGSは、人気サッカー漫画「キャプテン翼」の作者、高橋陽一さんが代表を務める「南葛SC」の女子チームとして14年に設立。同年に東京都女子サッカーリーグ5部で全勝優勝すると、その後もカテゴリーを上げ続け、20年に東京都1部から関東2部へ、翌21年に1部へと昇格した。22、23年度は1部で4位にとどまっていたが、今季は勝利を重ねてリーグ2位と躍進していた。 リーグ得点王に輝き、2部入れ替え戦では計3得点とチーム躍進の原動力となった石倉花純選手(23)は「新しい(松本)監督になって、攻撃を重視するスタイルにガラリと変わった。前を向くことを意識し、積極的にゴールを狙う。その結果が得点という形で出たと思っています。来年も自分がどのくらい通用するのか、楽しみながらやっていきたい」と笑顔で語った。 松本監督は、元J1川崎監督で現在は男子南葛SCの監督を務める風間八宏テクニカルダイレクターの指導のもと、チーム強化を進めてきた。そのビジョンは、こうだ。まず、一人一人が「うまい」選手になること。その技術を背景に各選手の目線がそろえば、ファンやサポーターに楽しんでもらえる「面白い」プレーが生まれる。「うまい」選手が「面白い」プレーをすることで、相手を圧倒する「強い」チームになる――。松本監督は「強いチームへのチャレンジを全員で楽しんだことが、ここまでの結果に表れている」と手応えを感じている。 ここまでの道は、平たんではなかった。なでしこ2部への加入を申請したチームには、加盟基準に基づいた審査が実施される。チームの経営状況や戦力、観客数、選手育成などが評価され、認められたチームが2部入れ替え戦の予選に挑戦することができるが、22年はこの審査を通過できず、予選にすら出られなかった。昨年は審査こそ通過したものの、予選で敗退。そしてチームを鍛え直して臨んだ今年、福島県楢葉町の「Jヴィレッジ」であった予選を3勝1敗の2位で勝ち抜き、なでしこへの挑戦権を得ることができた。 こうして苦しんで戦い抜いた経験が、チームの成長につながっているようだ。広報の如月拓未さんは「これまで悔しい思いをしてきた選手たちは新人たちに入れ替え戦の厳しさだけでなく、『笑顔でサッカーを楽しむ』というWINGSらしさも伝えてくれた」と語る。「常に選手の背中を押してくれたファン・サポーター、入れ替え戦参加へのクラウドファンディングで支援してくださった方々にも感謝しています」 昇格を決めた後、選手たちは、応援に来てくれた家族やサポーターと喜びを分かち合った。結成時からチームに所属し、発展を見守ってきた大河原美和選手(26)は「明るくサッカーを楽しもうと一人一人が意識していました。メンバーが増えた今季は試合に出られない選手もいたけれど、全員で戦うという気持ちを皆が持っていました」と結束を強調。昇格については「私たちが目指していくところの、まだ通過点」と語る。 人見のどか主将(27)も「昇格はめちゃくちゃうれしい。今シーズンのサッカーは、風間さんが提唱する『止めて蹴る』練習から始まった。最初は難しくてもがいていたが、真面目に取り組んできたことで、結果が出てきました」と目を輝かせる。今後は「なでしこリーグでもWINGSのサッカーは通用する、ということを証明していければ」と意気軒高だ。笑顔を絶やさぬWINGSの選手たちがさらなる高みへとはばたけるか、期待して見守りたい。【榎良広】