左から高田川親方、岡田綾太朗、ウルフ・アロン

■山下泰裕、井上康生ら多数の五輪メダリストを輩出し、大学の体重無差別団体戦で最多27度の優勝を誇る名門、東海大柔道部から1955年の創部以来初となる角界挑戦者が出ることになった。4年生の岡田綾太朗（りょうたろう　22）。2年生の時に100㌔超級で東京学生体重別選手権3位の実績を持つ171㌢、165㌔は、「（相撲部屋での稽古で）相撲の楽しさ、厳しさ、柔道との違いを肌で感じて、その中で上を目指したいと入門を決めた」と決意を語った。 　 大学の柔道場がある東海大の湘南キャンパスで16日にあった会見には、岡田のほか、入門先となる高田川部屋の師匠、高田川親方（元関脇 安芸乃島）、入門のきっかけを作ったという大学OBでパリ五輪代表、東京五輪金メダリストのウルフ・アロンも顔を揃えた。 　 まず、4年間指導をしてきた東海大の上水研一朗男子監督が挨拶とともに心境を吐露。「大相撲に挑戦するというので、最初は冗談かと思った。送り出すのには期待と不安で不安の方が大きいが、本人が固い決意と意志を持っているので応援したい。是非、角界で鍛えて頂いて、日の目を見てくれればと思う」と話した。 　 得意は一本背負いだが、柔道では大学のレギュラーにはなれず、全国レベルでの活躍は出来なかった。そのことは岡田本人も自覚している。「4年間、一生懸命に柔道に取り組んできたが、結果を出せずにいた。お世話になった監督にも相撲という別の形で恩返しができたら。柔道では投げられることはないけど、技出しが遅くて反則で負けることが多かった。白黒がはっきりつけられる相撲の方が、自分には向いているんじゃあないか、と決断した」 　 相撲の発祥の地とも言われる島根県出雲市で育った。だが、小さい頃から柔道一筋で水泳やバスケットボールをしたことはあるが、相撲は全くやったことがなかったという。「大相撲は、お爺ちゃんと一緒に夕方、テレビを見るのが好きだった程度」だった。 転向のきっかけを作ったのがウルフだ。ウルフの道場、高校、大学の後輩に高田川親方の長男がいた。その縁で高田川部屋での相撲体験に岡田を誘い、その様子を自らのユーチューブで公開した。ウルフは「岡田は、最初は相撲に乗り気ではなかったが、その日稽古をしてみて前向きなった。『もしも、入門したら面白いね』と話していたが、こんなにトントン拍子で行くとは。ビックリしている」と笑った。 引き受ける側になった高田川親方も終始、笑みがこぼれた。「自分も小、中学と柔道少年だった。東海大柔道部と言えば、柔道家にとっては憧れの名門。そこから角界に入ってくれるというのは喜びもあるし、指導する自分にプレッシャーもある。本人は名門の名を汚さぬように稽古も、結果も出して精進して欲しい。あとは、やるか、やらないか、本人次第。やらない人間は辞めるしかない世界」 角界で中学までの柔道経験者と言えば、師匠の高田川親方のほかに元横綱北勝海の八角理事長、元横綱大乃国の芝田山親方らもいる。ただし、大学まで体育会で柔道をしてからの転向での成功者は、元大関魁傑（故人＝日大柔道部中退）がいるくらいだ。柔道は投げ技が多いだけに、相撲でもなまじ投げにこだわりすぎると失敗する例が過去にも数多くあった。 高田川親方は、そういうことも理解した上で、背が低く丸っこい体と短い手足に向いた相撲を指導するつもりだ。「柔道のセンスはなかったんでしょうね。でも、そういう選手の方が相撲にはあっている場合が多い。不器用で、どんどん前に出ていく押しを主体にした相撲が取れれば、面白い力士になると思う。相撲は素人なので、22歳でのスタートですが、15歳で角界入りする子と同じ。でも、体のポテンシャルは違う。これからどれだけ学んで努力するか。相撲を全くやっていない分、面白いかな、と思う」 「大学まで柔道をやらせてくれた家族のためにも頑張る。人気も大事だと思う。魅せる相撲、迫力ある下がらない相撲を取りたい。目標は幕内」という岡田は11月の九州場所（九州国際センター）で新弟子検査を受け、初土俵を踏む予定だ。そんな後輩にウルフは「幼稚園から始めた柔道では辛いこともあったと思う。新しい環境でも楽なことはない。これからは1ファンとして活躍を追っていく。僕はユーチューブの再生回数が伸ばせればよいので、ダメになったら離れていくよ」と彼なりのジョークも交えた応援メッセージを送った。 柔道着を過ぎ捨て、畳の上から土俵へ。「名門」の看板を背負った岡田の挑戦が始まる。（竹園隆浩／スポーツライター）