ハリウッド初夏商戦の異常事態が続く北米興行 第7位には『劇場版ハイキュー‼』が初登場
ハリウッド初夏商戦の異状が続いている。5月31日~6月2日、北米映画市場の週末累計興行収入は推定6000~6740万ドル。『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023年)が公開された1年前(約2億510万ドル)と比較し、わずか3割程度の成績だ。あえて繰り返すが、この週末、北米の映画館は前年比およそ3割の収入しか得られていないのである。 【写真】カッコよく銃を構えるフュリオサ(アニャ・テイラー=ジョイ) 原因はなにか。ひとつは、サマーシーズンを牽引するとみられた話題作が、相次いで期待を下回る成績となったことだ。今週末は人気キャラクター「ガーフィールド」のアニメーション映画『The Garfield Movie(原題)』がNo.1に輝いたが、週末興収は1400万ドルと決して大きくない。一方、業界と映画ファンの期待を背負った『マッドマックス:フュリオサ』は第3位に転落し、週末興収は1075万ドル。前週比-59.2%という下落率は道のりの厳しさを示しているだろう。 むろん、『The Garfield Movie』と『マッドマックス:フュリオサ』と同じ土俵で語るべきではない。前者は製作費6000万ドルのファミリー映画で、世界興収は1億5227万ドルとまずまず好調だ。しかしながら、後者は製作費1億6800万ドルという高予算のR指定アクション大作。世界興収1億1436万ドル(北米4966万ドル、海外6470万ドル)という数字は極めて厳しく、ランキングがこの順位になってはならないほどの事態である。 鑑賞料金の面でも、『The Garfield Movie』は主な客層がファミリーに偏るため、平均金額は10.75ドルと低め。かたや『マッドマックス:フュリオサ』の平均金額は15ドルとやや高めだ。週末の動員人数には、前者が130万人、後者が70万人という開きがあったという。 言うまでもなく、これは「話題作が思ったほど当たらなかったからよくない」とか、あるいは「興行がふるわないのは作品の質が低いからだ」などといった程度の話ではない。『マッドマックス:フュリオサ』は、シリーズの前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)の前日譚であり、エネルギッシュなアクションと作品のトーンを引き継ぎながら、新たな構造と仕掛けを用意した野心作。世界的に批評家・観客の評価は高く、筆者も大いに楽しんだことを念のため付言しておきたい。 むしろ問題は、「なぜハリウッドの映画興行がこんな状態になってしまったのか」のほうだ。なぜなら、『マッドマックス:フュリオサ』がシリーズのファン以外に訴求しきれていない可能性は前週も触れた通りだが、そのために同作の興行が多少ふるわないことは、市場全体の興行収入が前年比30%程度に落ち込んだ理由にはならないからだ。当然ながら、話題作『ブルー きみは大丈夫』(今週は第2位に上昇)と『フォールガイ』の苦戦や、初夏唯一のヒット作『猿の惑星/キングダム』でさえ黒字化に及んでいないことの理由にもならない。 先週の記事では、こうした事態の背景に、2023年の全米脚本家組合&全米映画俳優組合によるWストライキがあることを指摘した。初夏商戦がいよいよ惨憺たる状況に突入した今週、北米メディアの論調はより激しくなっている。 Deadlineは、「ストリーミングとの激しい競争の中で、劇場公開の存続を疑問視している者もいる。しかし、サプライチェーンや全体の生産を混乱させたストライキがなければ、このような興行不況に陥ることはなかった」と記した。Varietyも、専門家のデヴィッド・A・グロスによる「今週末もパンデミックとストライキによる混乱の一例だ。(中略)この矛盾を乗り越えるにはあと1年かかるだろう、回避する道はない」とのコメントを引用し、産業としての停滞を大いに危惧している。