成長戦略の鉄則は「メッシュ型」 強い中堅企業の共通点とは
「広げること」よりも「深掘りすること」
また、中堅企業は顧客とも強い関係性がある。工場に年間10万人以上の見学客を集めたり、過疎地でバス路線を充実させたり、企業も顧客も幸せになる関係を築いている。顧客にとっては、「なくては困る」「満足というより感動をくれる」「一生の付き合いになる」ような存在だ。企業の発展と地域の発展が結びついており、地域社会の精神的な支柱の役割を担っているともいえる。 日本の強い中堅企業の設計図と従来の米国企業をモデルとした設計図の大きな違いは、核や基点が「理念」にあるところだ。米国モデルが「何をどうやって」(what and how)を重視するのに対して、日本の中堅企業には、まず「why」があって、その下位に「what and how」がある。理念が軸になればそれが組織や社員の行動規範になり、結果として経営目標が大きく変わる。このような設計図による経営目的は、経済的成果よりも人の幸せや地域の繁栄、企業の永続性が優先される。日本に長寿企業が多いのは、そうした経営哲学によるものだと思われる。 日本は世界でも中堅企業の競争力が高いといわれている。その特徴と強みは、「広げること」よりも「深掘りすること」にある。これは、サービス(おもてなし)、技術、食など、すべてのことに通じていえることだ。特定市場のセグメントを細分化して、それを徹底的に深くすることによって極めようとする。特に日本はモノづくりのニッチな分野でそれを極めた企業がたくさんある。 ■「長屋型」より「クモの巣型」 一方で、「大きい企業へのなり方」には十分に注意する必要がある。多くの日本企業の成長は多角化や総合化によるものだ。しかし、こうした成長では、ひとつの企業のなかに関係性が薄い複数の事業をもつようになる。つまり、まとまりのない「何でも屋」だ。総合電機メーカー、総合重工、総合スーパー、総合百貨店のような、いわゆる「総合型企業」は、今の事業環境にはそぐわなくなった。 これは米国のGEでも例外ではない。多角化や総合化による成長は、同じ業界のなかに同じような企業群を生み出し、その結果、過当競争が起こる。高度成長期には、水平方向への拡大が競争意識を生み出し、成長に大きく貢献したが、今の事業環境においては組織調整のコストや時間の浪費を招く。成長は目的ではない。規模は強靭な競争力をもつ結果であることを意識する必要がある。 では、理想的な大企業への成長はどのようにすべきか。大きくなるには「軸」が必要だ。例えば、セコムの軸は「安心安全」で、法人向けの警備保障を中心に、個人向けの救急サービスや情報セキュリティなど、すべての事業が創業理念を具現化したものになっている。バラバラの事業を長屋のように連ねていくのではなく、クモの巣のように中核事業の周りからポートフォリオを埋めていくやり方だ。海外では「メッシュ型」と表現されるが、GAFAMの戦略をみても、中核にある事業の周りを濃密度に広げて筋肉質に体を大きくしている。 軸がないために競争力を失った企業は多い。かつてダイエーは「総合生活産業」を標榜し、消費者の生活に関係するあらゆる産業をのみ込んでいった。シャープの経営理念の冒頭には「いたずらに規模のみを追わず」と書かれているが、液晶テレビで規模の競争にのみ込まれた。東芝や三洋電機も敗因は同じだ。企業の規模が大きくなることを否定しているのではない。目指すのが強靭な競争力をもった企業であれば、その「大きくなり方」が重要なのだ。 いそべ・たけひこ◎名古屋商科大学ビジネススクール教授、慶應義塾大学名誉教授。琉球科学大学商学部教授、神戸大学経済経営研究所、慶應義塾大学大学院経営管理研究科の教授を経て2023年より現職。一般財団法人企業経営研究所の理事長も兼務。
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