ふるさと納税「ポイント禁止」のなぜ? “業者の中抜き”だけじゃなかった…憂慮すべき「2つの問題」とは
自分が居住する自治体の財政に「打撃」を与えるリスクも
ふるさと納税の第二の問題点「財源流出」についてはどうだろうか。 黒瀧税理士:「他の自治体にふるさと納税をすることは、居住する自治体から『寄付額-2000円』の額を流出させることを意味します。 その結果、自治体によっては、基本的な行政サービスの提供に支障をきたす可能性があります。 現に東京23区(特別区)の区長で構成される『特別区長会』は、ふるさと納税による特別区民税の減収額が2023年度だけで約830億円、2016年度からの累計で約3600億円に達していると発表しています(「ふるさと納税制度」に関する要望について(2023年7月31日)参照)。 ふるさと納税のもともとの趣旨は地方の活性化にあります。しかしその反面、最悪の場合、住民自身が他の自治体へと税収を流出させ、その結果として自分の自治体の行政サービスの低下につながり、自分自身の首を絞めることになりかねない側面があることも、忘れてはなりません」 多数の人口を抱える東京23区でさえも危機感を募らせている。ましてや、自治体のなかには、もともと財政難で、過疎化が進み税収の確保が困難になり、かつこれといった「名物」「特産品」がないところもある。そのような自治体にとっては、ふるさと納税による税収の流出は負のスパイラルを招きかねない。
最終的には「増税」で国民がツケを払わされる!?
黒瀧税理士は、ふるさと納税の制度が税収の流出に加えて国税・地方税の「増税」を招く可能性があるという問題点も指摘する。 黒瀧税理士:「第一に、国全体でみて、地方の税収が減少するということが挙げられます。 どういうことかというと、まず、ふるさと納税をした人の居住する自治体では、そのぶんの税収がそのまま他の自治体へ流出します。これだけならば国全体では『プラスマイナスゼロ』かもしれません。 しかし一方で、ふるさと納税で寄付を受けた自治体は、寄付額の全額を懐に入れられるわけではありません。前述のように、返礼品を調達する費用、自治体での事務に係る諸費用、仲介業者への手数料などの『経費』が差し引かれます。 国全体では明らかに地方の税収は『マイナス』となります。 特に、税収が減る自治体は、足りない分については、地方交付税交付金で補うことになります。その財源は結局のところ税金なので、増税でまかなうことにならざるを得ません。 先ほど東京23区の税収の流出の問題を取り上げましたが、東京23区はいずれも地方交付税交付金の不交付団体です。財源が確保できなければ、区民税の増税などで対応せざるを得ません」 この点については、『経費』の支出によって、返礼品を提供する地場の業者や、ポータルサイトを運営する仲介業者などが潤い、めぐりめぐって税収の増加につながるというプラスの効果も考えられるのではないか。 黒瀧税理士:「そのような側面があることは否定できないでしょう。しかし、それはふるさと納税の本来の機能とは一応区別して考えるべき問題です。 ふるさと納税のもともとの趣旨は、税収の不均衡を是正し、それを通じて地方を活性化させることにあります。 地場の業者を潤わせる目的というならば、ふるさと納税のしくみはやや技巧的かつ遠回りです。現に仲介業者に支払う手数料が問題視されています。より直接的で効果の高い方法は他にもいろいろ考えられます。 ふるさと納税の制度が抱える問題点・副作用を十分に理解したうえで、よりよい制度設計をしていく必要があります」 ふるさと納税をする人にとって、「返礼品の額-2000円」の額だけ儲かることは分かりやすいメリットである。しかし、そこに付随する様々な問題点があることを忘れてはならない。 政府、国会議員はいうまでもなく、一般国民・納税者も、ふるさと納税の本来の制度趣旨・目的がどこにあるのかを見極めたうえで、よりベターな制度設計を追求することが求められている。
弁護士JP編集部