「きれいごと」が並ぶ公約、どう見極める?佐藤卓己・上智大教授が考える方法は…「セロンよりヨロン」「悪さ加減の選択」
あいまいな情報に飛びつかない
――そして新刊『あいまいさに耐える ネガティブ・リテラシーのすすめ』(岩波新書)では、輿論を育むためには善/悪、左/右といった判断を急がず、あいまいな情報に飛びつかない「耐性思考」こそ必要と書いていますね。
佐藤 SNSが登場し、真偽不明の情報が飛び交う現代では、不用意な反応をしないために、「ソ・ウ・カ・ナ=即断しない・鵜呑(うの)みにしない・偏らない・中だけ見ない(スポットライトの外側に隠れている情報を想像する)」という姿勢が大切です。
――ただ選挙では、限られた期間に、限られた情報で、限られた候補者から投票先を選ぶ必要がある。どうしたらよいでしょう。いつも参考にしているのは先輩記者の橋本五郎特別編集委員が敬愛する明治の思想家、福沢諭吉の「政治とは悪さ加減の選択である」という言葉です。
佐藤 早急に正解を求めないため、より悪いものを見定めて排除する。「悪さ加減」の選択は有効な手段だと思います。
反対意見を説得する気がないと…
――悪さ加減をはかる基準はありますか?
佐藤 輿論の輿は御輿(みこし)の輿です。輿論となる言論かどうかは御輿を担ぐように論を担いでいるか、つまり意見に責任をもつ気概があるかどうかで見極めます。単に、国民がこう言っている、要望しているからと公約を掲げる人は、世論に迎合しているだけで、自らの責任で主張しているようには見えない。
とりわけ有権者を行政サービスの受け手(消費者)のように扱い、すぐに利益を与えるかのような発言をするのは、世論迎合の典型です。
――財源を語らぬ大盤振る舞いは無責任ですね。でも、人は、将来の報酬よりも、すぐにもらえる目先の報酬を選んでしまいがちでは……。
佐藤 だからこそ、目先にとらわれず、将来を考える遅延報酬型の見方で、公約を判断する姿勢が大切です。
それと、反対意見を説得する構えのない議論は簡単に信じてはいけない。輿論主義というのは、明治天皇が新政府の施政方針を示した「五箇条の御誓文」の第一条「広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スヘシ」に由来するもので、「公開討議された意見」です。だから、反対意見についての知識も必要で、相手と交渉し、長い時間をかけて説得する態度が求められます。