アクセンチュア流「SCM改革」、体験談で教える「3つのAI事例」と「3つの秘訣」
SCM改革における「AI活用のユースケース3つ」
1つ目は、デジタルツインの1つとして、「サプライチェーンの変化に対し、AIに対策案などのドラフトを作らせる」ユースケースだ。そのために兼沢氏は、「データ整備の重要性」を説く。 「たとえば、新工場の設立や新製品の立ち上げなどで、その都度、データをAIに学習させておくと良いでしょう。これまで暗黙知として共有されていたものが可視化されたナレッジとなれば、工場の生産能力を判断する際など、データに裏付けされた判断が可能です」(兼沢氏) 2つ目は、「複数のシナリオプランニング」のユースケースだ。たとえば、より顧客デマンドに追随するシナリオや、工場の資源を最適化するシナリオなど、複数のシナリオをAIに作ってもらう。その上で、「最後は人が意思決定を行います。意思決定を効率化させるためのオプションとしてAIを活用していくユースケースです」と兼沢氏は説明した。 3つ目は、「会話型のサプライチェーンプランニング」のユースケースだ。兼沢氏は「顧客企業の課題としてよく聞くのが、データの可視化によりデータドリブンな意思決定が可能になったものの、経営層の要望にデータを加工して判断材料を提示することができていないことです。まだまだ人のスキルレベルが足りていないようです」と話す。 そこで、自然言語を使い「この品目のこの状況が知りたい」と生成AIに入力するだけで、必要なデータを整理、加工してくれるインターフェースがあれば「さらに意思決定のスピード化、最適化を実現できます」と兼沢氏は説明した。
SCM改革の「苦労話」と「よくある落とし穴」
続けて兼沢氏は、プロジェクトを進めた中で苦労したケースから得た教訓を紹介。 苦労したケースとして、「ツールの導入が目的となってしまい、システムの改修を重ね、導入を完了するまで長期化してしまったケース」や、「現在の業務をベースにシステム導入を進めた結果、最終的に価値を創出するところにまで至らなかったケース」を挙げる。その両ケースで共通して得られた教訓として、「SCM改革は、IT主導ではなく、現場主導でプロジェクトを進める体制、組織を作ることが大事」という点を挙げた。 その上で、プロジェクトでつまずきやすい落とし穴となるのが「データ」だ。「精度と鮮度の高いデータがないと、出てきた計画の正しさも疑わしくなってしまいます」と兼沢氏は指摘する。 「プロジェクトメンバーにITやデータがわかる人材をアサインすること、業務側のメンバーもプロセスを考えるだけでなく、データの意味や運用ルールを理解し、一緒に整備していく体制が必要です」(兼沢氏) また「現在の業務から変わる」ことに抵抗を示す現場からは、システムに対するカスタマイズの要望が多く出てくるケースもある。そこで必要になるのが「トップダウン」だ。経営層には「トップの明確なコミット」が、現場側は「変革を小さな単位で回していく」ことが必要だという。 「変化が激しい状況で、5年先のスケジュールで改革プロジェクトを進めることは難しいです。まずは1年単位で良いのでバリューを定め、小さくリリースして成功体験を積み重ねていくことが、結果的に市場環境の変化に即応していくプロジェクトにつながると思います」(兼沢氏)