亡き夫との夢実現、福島・飯舘村に民宿開業 かぼちゃ農家「古希の挑戦」、原発禍越えて
東京電力福島第1原発事故でかつて全村避難を強いられた福島県飯舘村に、農家民宿「古今呂の宿 福とみ」が6月中旬にオープンした。あるじは、村特産のかぼちゃ「いいたて雪っ娘」を生産・加工する渡辺とみ子さん(70)だ。亡き夫との長年の夢だった民宿経営を「古希からの新たな挑戦」とし、農業体験や郷土料理を通じて村の魅力を発信していく。(共同通信=西沢俊佑) 2011年3月の原発事故後、渡辺さんは長野県白馬村や茨城県阿見町、福島市で避難生活を送ってきた。先行きの見えない日々に不安は尽きなかったが、「やってみなければ始まらない。諦めたくない」と自らを奮い立たせた。 同年5月には福島市で休耕田を借り、手作業で耕してかぼちゃを育て始めた。震災前から村で品種登録を目指し開発を進め、本格生産へ動き出そうとしたところの原発事故。「私が守っていかないと」と作業の手を止めることなく種をつないでいった。 慣れない環境下で困難の連続だったが、励ましてくれたのが夫で大工の福男さんだった。「どんな状況でも良くやっている。頑張っている姿を俺は見てきた」。この言葉が心の支えだった。
17年3月31日、渡辺さん方がある飯樋地区を含む村面積の95%が避難解除。渡辺さんは翌日から除染が済んだ畑で栽培を再開させ、福男さんも民宿開業に向け自宅の改修に取りかかった。だが、このとき既に福男さんの体はがんに侵されており、夢半ばで18年12月に67歳で息を引き取った。 福男さんが描いた図面を基に職人らの協力を得ながら作業を進め、念願の民宿がようやく完成。木をふんだんに使った内装が特徴だ。屋号の「福とみ」は、福男さんの「福」ととみ子さんの「とみ」から取った。 オープン初日の6月11日は、知人5人が訪問。食卓には、大皿に盛られたいいたて雪っ娘や地元農家が育てた食材を使った手料理13品が並んだ。渡辺さんは「実家で母ちゃんの味を懐かしむような場所にしたい」と意気込む。 福とみは、最大7人が宿泊でき、1泊2食付きで1人7700円から。予約はインターネットサイトで受け付けている。