「プログラミング技術」でしのぎを削る“無人カーレース”、モータースポーツとAIで狙う自動運転テクノロジーの進化
アメリカのハイウェイや日本の高速道路のような、ある程度環境が整備され、周囲の状況が予測しやすい場所で、ドライバーがハンドルやアクセルを操作しなくても自律的に走行できる市販車はすでにある。しかし、一般道を含むあらゆる道路環境、交通状況で安全に走行できるような完全自動運転は、まだ実現できていない。 アメリカ・グーグルの子会社、ウェイモ(Waymo)やゼネラルモーターズの子会社、クルーズ(Cruise)などによる公道試験走行でも、予期せぬ物との衝突が発生し続けている。2018年には横断歩道ではないところを、自転車を押して横断していた女性がウーバーの自動運転テストカーにはねられて死亡する事故があった。これは横断歩道でない場所を渡る歩行者を、ウーバー車のAIが想定していなかったことが原因とされている。また、今年5月にもウェイモの自動運転タクシーが、呼び出された場所に向かう途中で道路脇の電柱に衝突する単独事故を起こしている。
■準備段階から始まるレース 完全自動運転車が広く普及するには、予測不能な咄嗟の出来事に対して、技術的な限界値を使い切って対処するエッジケースと呼ばれる状況を克服する必要がある。A2RLは、そんな状況に対処できる完全自動運転の技術開発を、モータースポーツ競技とAIによって促進する試みだ。 ASPIREのエグゼクティブディレクターであるトム・マッカーシー氏は「通常はドライバーがすべての操作を行うが、この競技では実際にマシンを動かすのはプログラマーの腕前だ」と述べ、「最終的にはマシンがトラックをできるだけ効果的かつ効率的に、そしてできるだけ速く走行し、他車などの障害物を回避し、それらのマシンを追い越す機能を導入する必要がある」と言及した。
マシンの物理的なセットアップとは異なり、プログラムを開発するにはそれなりの時間が必要となる。そのためASPIREは、あらかじめSF23をドライバーによって走らせたテスト走行のデータを各チームに提供し、さらにはレースシミュレーターを使用する機会を各チームに与えた。またレース開催前にはレース会場のヤス・マリーナ・サーキットを2週間貸し切り、各チームが実際にマシンを走らせながらAIやマシン制御プログラムを強化できるようにした。