ニッチジャンルなのに専門誌が乱立! 「麻雀漫画」の歴史をまとめた唯一無二の大作
――本書の冒頭で「麻雀漫画の歴史を見ることで、日本の世相が浮き彫りになる......などということは基本的にない」と宣言していることが非常に印象的です。とてつもない時間とエネルギーを費やした分、筆者ならではの見解を入れたいとは思わなかったんですか? V林田 「麻雀漫画史を通じて日本社会の変化を解き明かす」というようなストーリーをつくったほうが書きやすいですし、読者にもわかりやすいだろうとは思います。でも、わかりやすいストーリーに仕立て上げようとすると、噛み合わない情報や証言を無視することになりますよね。そういうものを、どこかうさんくさいと感じるんです。 そこに社会的な意義のようなものがなくても、「この時代にこんな麻雀漫画があった」とか、「この漫画家は麻雀漫画を1作しか描いていないけれども、その後に別ジャンルで活躍した」とか、ただあるがままの姿を紹介したいし、楽しんでもらいたいという気持ちがあります。 そういう姿勢で書いた上で、それでもにじみ出てくるストーリーや背景だけが見えてくれば十分かなと。 ――本書には知らなかった漫画や情報が次々と出てきます。特に、80年代には15誌もの麻雀漫画誌が出ていたという事実には驚きました。なぜそれほど多くの麻雀漫画誌が生まれたのでしょうか? V林田 麻雀を打ちたい読者の代償行為のような側面があったのかなと。当時は今のようにオンライン麻雀はありませんし、「Mリーグ」(チーム対抗戦のプロ麻雀リーグ)のように対局を手軽に見られるコンテンツもありません。だから、麻雀漫画でそれを満たしたいという需要があったのでしょう。 また、当時は雀荘が多かったので、雀荘の情報を載せて得る広告費で雑誌を作れたという面もあります。それから、強くなりたいという読者に向けたレクチャー誌のような役割もありました。こういった多くの要因が絡まって、大量の麻雀漫画誌が生まれた時期があったのだと思います。 ――ちなみに、面白い麻雀漫画とはどういうものですか? V林田 優れたキャラクターの造形とストーリーがあり、そこに闘牌(麻雀の内容自体)の面白さが噛み合っている作品かなと思います。麻雀漫画誌の編集者に聞いた話によると、サービスのつもりでたまにセクシーなシーンを入れると「ちゃんと麻雀を打て!」と読者から苦情が来ていたとか。 それくらい麻雀自体の内容がとても重要なのですが、それだけで漫画がヒットするわけではなく、ストーリーの盛り上がりも含めて、総合的な面白さがあるものが傑作といえるでしょうね。