世界の「最強企業」たちが人材の争奪戦を開始…「最強の学問」行動経済学は、ビジネスでどう活用されている?
<GoogleやAmazonが専門チームを設立。行動経済学はすでに実際のビジネスの現場で、メールの書き方からマーケティングまで幅広い分野で活用されている>
アメリカの企業では「行動経済学専攻の学生の争奪戦」が起きています。Google、Amazon、Netflixといった名だたる企業が行動経済学チームを設けているためです。なぜ、世界で行動経済学が注目されるのでしょうか? ●日本だけ給料が上がらない謎…その原因をはっきり示す4つのグラフ 行動経済学の主要理論を体系的に解説した画期的な一冊が、『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ)。2024年8月時点で10万部突破のベストセラーとなっています。著者で行動経済学コンサルタントの相良奈美香さんに、行動経済学がいま注目を集めている理由をお聞きします。 (※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です) ■日本人として数少ない「行動経済学のプロフェッショナル」 ──まずは、相良さんのこれまでのキャリアを教えていただけますか。 18歳のときに単身でアメリカに渡り、大学2年生の頃、行動経済学に出合って「こんなに面白い学問があるのか」と感銘を受けたんです。研究を続け、オレゴン大学大学院の心理学「行動経済学専門」修士課程と同大ビジネススクール「行動経済学専門」博士課程を修了しました。 ポスドクを経てアメリカで就職先を探したのは2013年のこと。当時は行動経済学が注目されていましたが、事業への応用を考えていた企業は限られていて、行動経済学に関わるポジションの募集はなかった。そこで、自分で行動経済学コンサルティング会社を立ち上げたのです。 ──ものすごい行動力ですね! 手探りでしたが、時代の流れに合い、ありがたいことにお客様が着実に増えていきました。その後、世界第3位のマーケティングリサーチ会社からヘッドハントされ、業界初の行動経済学センターを設立し、代表就任へ。欧米の金融、保険、製薬など、あらゆる業界のマーケティングリサーチに行動経済学をどう活かしていくか、ゼロからサービス構築を進めました。 気づいたのは、行動経済学はマーケティングリサーチだけでなく、「人間のビジネス全般」において重要になるということ。そこで会社を退職し、行動科学グループの代表として、行動経済学を含めた行動科学のコンサルティングを展開していきました。 扱う領域は幅広く、アプリの開発もあれば、顧客の資産形成の意思決定支援もあります。大量離職が起こった米国のクライアント企業では、従業員のエンゲージメント向上施策の提案もしました。 めざしたのは「行動経済学の理論を体系化した本」 ──その後、どんな経緯で『行動経済学が最強の学問である』の執筆に至ったのでしょうか。 きっかけは、SBクリエイティブの編集者から届いた、一通の日本語のメールです。普段ビジネスのやりとりはすべて英語だったので、目を引きました。依頼内容は、「これまでの行動経済学の研究と実践をベースに本を書いてほしい」というものでした。 執筆するなら、断片的な知識を辞書のように列挙する本ではなく、行動経済学の理論を体系化した本にしたかった。そのような形式にしてこそ、行動経済学の研究とビジネスへの実践を積み重ねてきた私ならではの本になると考えたのです。 最終的には、行動経済学の本質である「非合理な意思決定」を、「認知のクセ」「状況」「感情」の3つの要因に分類し、190の論文を論拠として、体系的に解説する本に仕上がりました。専門用語の日本語翻訳や、日本の慣習に合う事例集めには苦労しましたね。 ■行動経済学の知見で、「顧客へのメールの書き方」も変わる ──ご著書では、行動経済学をセールスプロモーションに活かしている事例が紹介されています。たとえば、似たような機能や見た目でも、より高額の商品が店頭に陳列される理由など、興味深くお読みしました。セールスプロモーション以外で、「企業の課題解決に行動経済学が活かされている事例」はありますか。 行動経済学は「人間の意思決定」を科学する学問です。どのビジネスも人間が関わっている限り、ほぼ高い確率で行動経済学の知見が活かせます。Google、Amazon、Netflixといった名だたる企業が行動経済学チームを設けていることは、行動経済学への期待がいかに大きいかを物語っているといえます。 実際、私が執行役員を務める不動産テック事業のGAテクノロジーズでは、お客様のニーズを理解するマーケティングリサーチ、お客様とのコミュニケーション向上や、プロダクトの顧客体験改善など幅広く関わっています。いわば「何でも屋」です。 お客様とのコミュニケーション向上では、資料のつくり方、メールの文章の書き方などにも関わり始めました。たとえばお客様とのアポをとる際、「電話、オンライン、対面」の3つの選択肢を提示するのか、それとも2つがいいのか。行動経済学の観点では、お客様の意思決定の負担にならないよう、3つではなく、2つに絞るのがよいとアドバイスしました。 さらには、お客様にとって一番ラクな選択肢である「電話」をデフォルトにすると、お客様の意思決定の負担が減らせます。これは「デフォルト効果」を活用したもの。資料も、不要な情報が多すぎる「情報オーバーロード」の状態なら、絞り込むようにアドバイスしています。 人間は一日に3万5000件もの意思決定をしているといわれています。GAテクノロジーズのお客様はお忙しい方が多い。だから、意思決定の負担を少しでも減らせるよう、アプリのUI一つとってもきめ細やかに行動経済学の知識を活用しています。