Jリーグ観戦者が「蚊帳の外」 判定経緯説明“なし”で「なぜ?」…妥当性欠く現地ファンへの気配り【コラム】
現場の出来事をしっかりと理解し満喫してもらうこともファンサービス
ビデオレビューの映像をスタジアムのスクリーンに流すかどうかは、各大会組織に委ねられているという。一方でレフェリーがレビュー後に判定の説明をする試みは、すでにFIFA(国際サッカー連盟)主催の大会でも実践されており、昨年の女子ワールドカップ開幕戦で山下良美主審がVARを経てPKの決定をアナウンスしたのは周知のとおり。プレミアリーグでも来シーズンから導入を予定しているそうである。 そもそもVARを導入したのは、公平で正確な判断を下し、両チーム関係者やファンに納得してもらうためだったはずだ。ところがJ1では、せっかくVARが導入されたのに、スタジアムに足を運んだファンは、自宅で中継を楽しむよりも真実に近づけない。「なぜ?」の隔靴掻痒(かっかそうよう)感は払拭できないまま帰途に着くことになる。 残念ながら陸上競技場が目立つJリーグの観戦環境は、必ずしも恵まれているとは言えない。一方で各クラブともファンを楽しませようと、大音響のアナウンスや花火を打ち上げるなど派手な演出ばかりに走る傾向が見て取れる。だが本来のファンサービスとは、入場料を払って観戦する人たちに、現場で起こった出来事をしっかりと理解し満喫してもらうことではないだろうか。 歴史が浅く伝統国を追う立場のJリーグが、ピッチ上のパフォーマンスの質で上回るのは難しい。しかしこうしたファンへの気配りなら、先取りすることも可能なはずである。 [著者プロフィール] 加部 究(かべ・きわむ)/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。
加部 究 / Kiwamu Kabe