「ヒグマ駆除に悪影響」 猟銃訴訟・二審で逆転敗訴…原告ハンターは上告、今は「丸腰」で現場に
●一審はハンターの訴えを全面的に認める判決を下した
一審の口頭弁論が始まった当初から、池上さんは裁判所に「現場を見てほしい」とうったえ続けていた。審理にあたった札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長=当時)はこれを受けて、異例の「検証」に踏み切ることに。 2020年10月におこなわれた現場検証では、裁判長自らビデオカメラを手に土手などを歩き、現地の地形や駆除当日の発砲状況などを確認した。 さらに1年を経た2021年10月には、駆除に立ち会った砂川市職員や警察官らの尋問があり、発砲が適切におこなわれたことを裏づける証言が残された。 池上さんに鳥獣法違反などの疑いをかけた旧・砂川署がこの市職員や警察官らの調書を作成していない事実も明らかになった。 2021年12月の一審判決で、札幌地裁は公安委の猟銃所持許可取り消し処分を「著しく妥当性を欠き違法」「裁量権を逸脱・濫用した」と断じ、池上さんの訴えを全面的に認めて処分の撤回を命じた。 「警察の胸三寸で容疑者にされるなら誰も撃てない」。銃によるヒグマ駆除に慎重になっていた地元ハンターらは一審判決を歓迎し、原告の池上さんも改めて自治体や警察と猟友会との協力体制の強化をうったえた。 だが、敗訴した北海道公安委がほぼ間を置かずに控訴したことで判決確定は先送りとなり、争いは高裁に持ち込まれた。
●二審はハンターの逆転敗訴だった
二審を指揮した札幌高裁(佐久間健吉裁判長=当時)が地裁同様「検証」を実施したのは2023年9月のこと。裁判官らは改めて現地の高低差を確認し、発砲場所やヒグマの位置を特定する作業にあたった。 立ち会った池上さんは「これで射線がより明確になったのでは」と一審判決の維持に期待を寄せたが、そこから1年を経て伝えられた結論はおよそ想定外の決定となる。 今年10月18日午後、前裁判長・佐久間健吉判事から審理を引き継いだ高裁の小河原寧裁判長が判決言い渡しの口を開いた直後、各地から足を運んだハンターたちが並ぶ傍聴席を重苦しい空気が覆った。 「主文1、原判決を取り消す。2、被控訴人の請求を棄却する」 公安委の不当な処分を厳しく断罪した地裁判決とは百八十度異なる、池上さん全面敗訴の逆転判決。呆気にとられる傍聴人たちの耳に、信じ難い事実認定が飛び込んできた。(※ 伏字は筆者による。以下同)。 「被控訴人が本件発射行為により発射した弾丸は、本件ヒグマを貫通し、■■が所持していた猟銃の銃床に当たって貫通した」 池上さんの撃った弾丸がクマに致命傷を与えた後で跳弾し、同じ現場にいた「共猟者」の銃に命中したというのだ。当事者にとって、文字通り唖然とせざるを得ない事実認定だった。