「ヒグマ駆除に悪影響」 猟銃訴訟・二審で逆転敗訴…原告ハンターは上告、今は「丸腰」で現場に
●跳弾説は「事件」になっていないはずだが・・・
本サイトの過去記事などでも何度か報告しているように、この跳弾説は当初から共猟者の男性が主張している逸話で、この男性の言い分に耳を傾けたという人物によるブログなどでも発信されている。 池上さんの弾が命中したことで共猟者氏の銃の銃床が破損し、この被害を知った旧砂川署が池上さんに法令違反の疑いをかけたという説だ。被害が事実なら、それこそ当事者の銃が取り上げられてもおかしくない事態。 ところが、クマを貫通した弾が当たったという銃床からクマの体液やDNAなどがみつかったという報告はなく、そもそも警察は破損した銃床を証拠として保管せずにあっさり持ち主へ返している。 それどころか、筆者が2020年の時点で共猟者本人に確認したところ、共猟者氏は警察から「あなたの件ではやらない(跳弾の件は捜査しない)」と言われたというのだ。あわせて、破損した銃床を決して報道機関などの第三者に見せないよう指示されたとも。 警察の真意は不明だが、はっきりしているのは、跳弾説が事件になっていないという事実。先に述べた通り、池上さんが銃を取り上げられた理由は「建物に向かって撃った」なる行為による。
●二審は執拗に跳弾説にこだわった
実際、池上さんの訴訟代理人をつとめる中村憲昭弁護士は処分庁の公安委から「共猟者の主張と所持許可取り消し処分とは無関係」との証言を得ている。さらに一審・札幌地裁の判決では、次のような指摘がされていた。 「そもそも本件処分の理由は『弾丸の到達するおそれのある建物に向かって』銃猟をしたとするものであって、■■の所持していた猟銃の銃床を破損させたとか、■■に向かって銃猟をしたなどということは、処分の理由としては一切挙げられていない」 くだんの共猟者男性は一審の弁論で被告側証人として出廷し、尋問に応じている。そこで語られた証言を裁判所が評価して曰く、 「その証言内容には、疑問を差し挟むべき不自然な点が多々みられるものと言わざるを得ない」 札幌高裁は今回、地裁判決で一蹴され、被告の公安委や警察も立証を放棄していた説をまったく唐突に蘇らせ、それを根拠に判断をひっくり返してしまった。 それだけではない。高裁は執拗に跳弾という現象へのこだわりを見せ、次のようにも断じているのだ。 「本件発射行為による弾丸が、本件ヒグマに命中したとしても、その後弾道が変化するなどして、本件周辺建物5軒、特に本件一般住宅に到達するおそれがあったものと認めるのが相当である」 「本件斜面及び本件市道上には■■、■■警察官及び■■職員がおり、弾丸の跳飛の一般的様相は極めて複雑で、跳弾は飛んでいく方向が分からず複数回起こり得ること等にかんがみると、本件発射行為は同人らの生命・身体も危険にさらしたというべきである」 池上さんが撃った1発の弾丸は、クマに当たったあとで複数回跳弾し、5軒の建物と3人の人物に当たる可能性があった、なぜなら弾丸は跳弾するもので、どこへ飛んでいくかわからないとされているから――。 米国のケネディ大統領暗殺事件で引き合いに出された「魔法の弾丸」を彷彿とさせる説。判決言い渡し後に記者会見を開いた池上さんは、ほとんど頭を抱えたような面持ちで「考えられない」「わけがわからない」と繰り返し、「理解を超越した話だ」とうったえた。 同席した中村弁護士も「銃自体の危険性と特定の発砲行為の危険性とを混同している」と高裁の事実認定を強く批判した。 「跳弾するかもしれないというなら、バックストップに向かって撃ってよいとも言えなくなる。ハンターは誰も発砲できなくなってしまいます」