マルコム・グラッドウェルが語る『ティッピング・ポイント』の25年後
変わらぬグラッドウェルらしさ
グラッドウェルは『ティッピング・ポイント』に次ぐヒット作を次々と生み出していった。直感の力をテーマにした2005年の、『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』や、人々がどうすれば成功できるかをつづった2008年の『天才! 成功する人々の法則』は、何かのプロになるには1万時間にものぼる長い時間が必要だという考えを世間に広めた。 グラッドウェルの本はいずれも人気だが、批評家たちのグラッドウェル評は25年にわたって「彼は回想のなかから使えるエピソードを厳選することに頼りすぎている。だから彼の議論はシンプルまたは明瞭、もしくはその両方になってしまう」というものだった。 「昔はそういう批評を深刻に受け止めていたかもしれません。が、一つのレビューは一人の意見にすぎません」とグラッドウェルは言う。「私の本は、万人に当てはまるわけではありません。私の本が案内する旅に興味がある人でなければ、内容は刺さらないでしょう」 そして彼は、その旅を楽しくするコツを熟知している。彼のデビュー作は科学と物語のどちらをも織り込み、時にはユーモアあふれる脱線をはさみながら、生き生きしたキャラクターたちやハラハラする展開を通して学術的な研究を紹介していく。こうしてグラッドウェルは、サイエンス・ライティングのポピュラーな新ジャンルを開拓したのだった。 彼の最新作『リベンジ・オブ・ザ・ティッピング・ポイント』(未邦訳)は、彼の著作のなかでも最もグラッドウェルらしさ満載の一冊となっている。そして、オリジナル版よりもややダークな雰囲気が強い。オリジナル版は、世界は「向上する余地のない、がんじがらめの場所に見えるかもしれない。だが、そうではない。ちょっと正しい場所を押してやれば、傾くのだ」と、人々を勇気づける言葉で締めくくられている。 いまグラッドウェルは、「正しいポイントを見極めて押す」のが誰なのかということに関心を持っている。個人個人が集まって流行が作られるのだとすれば、悪意をもって強大な影響力を行使しようとする人物をどうやって阻止すればよいのか?(続く) 後編では『リベンジ・オブ・ザ・ティッピング・ポイント』の内容を紹介。25年前よりも不安が多い現在、グラッドウェルはさまざまな問題にどのように斬り込んでいるのか。
Sophie McBain