〈池上彰が見るアメリカの分断〉少数派に転落しそうな白人の焦燥感はトランプ再選への追い風となるか
ホテルを借り上げて不法移民を住まわせたニューヨーク
国境に壁をつくり、移民審査を厳しくし、さらにサンクチュアリ・シティにまで圧力をかけるようになったトランプ政権時代、不法移民の数は激減しました。1度国外退去の処分を受けると、移民申請はさらに厳しくなります。これを恐れて、アメリカに渡ろうとする人が減ったのです。 ところがバイデンが大統領になると、壁の建設を強く非難して凍結し、以前の受け入れ態勢に戻します。そうなると再び、中南米からの移民が大挙して国境を越えてくるようになりました。これにより国境沿いの州に混乱が起きます。不法移民はまず保護され、そこで移民や難民の審査とその結果を待ちます。 その彼らを保護するための施設がまるで足りない状態になったのです。テキサス州やフロリダ州の共和党の知事は「民主党の政策でこうなったのだから、民主党支持の多い都市で彼らを保護すべきだ」と、大量の不法移民をバスでニューヨークに送りつけました。 困ったのはニューヨークです。ニューヨークにも十分なシェルターがあるわけでもないので、施設の周辺に不法移民たちがあふれます。治安の悪化を懸念したニューヨークでは、ホテルを借り上げて、そこに彼らを住まわせる、ということまでしたのです。 日本では考えられないことです。私も現場に行きましたが、ホテルのロビーも周辺もベネズエラからの移民であふれているような状態でした。 保護された不法移民は、難民申請をしているので、審査を待つ間、働くことはできません。することはなく、英語も話せないとなると、自ずと犯罪も発生します。不法移民たちがたむろしてうるさい、との苦情に警察がやってきたところ、移民たちが警察官に襲いかかるという事件もありました。 2024年3月、私がニューヨークに滞在している間に、その様子をとらえた防犯カメラの映像がニュースになりました。こうなると、さすがに移民に寛容な街といえども、不安が広がります。 急激な不法移民の増加に、バイデンは副大統領のカマラ・ハリスを問題解決の担当に指名しますが、大きな成果はあがっていません。2023年、バイデン政権は凍結していた国境の壁の建設を再開することを決めました。議会が他の用途に使うことを拒否したからです。 あくまでも、すでに計上されている壁の予算を使うだけだったのですが、トランプは、「バイデンによって自分が正しかったと証明された」とSNSに投稿し、1500万人もの不法移民でこの国をあふれさせたことについて、自分や国民に謝罪するように求めました。 アメリカは移民によってつくられた国であり、移民の労働力によって発展を遂げた国です。だからこそ日本ではありえないような、移民に寛容な政策をとってきましたが、極端な白人至上主義が国の分断を拡大させているのです。
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