「男のほうが頭がいい」「天才は男性に多い」という考えが端的に「間違っている理由」
男性のほうが頭がいい?
心理学において「知能」は、最も歴史があり、多くの研究がなされてきた分野の1つです。知能はいわゆる頭の良さであり、皆さんにもなじみのある知能指数(IQ)などでも表されます。どれだけ速く問題を解けるか、どれだけ知識があるのか、どれだけ与えられた情報から推論できるか、などの能力です。IQが高い人は学力が高いことが多く、偏差値が高いといわれる大学に合格をしたり、社会的地位が高いとされる職業に就く可能性が高かったりします。 知能における性差は研究されてきましたが、この歴史は性差別の歴史と言っても差し支えありません。ここで、その一端を簡単に説明したいと思います。 そもそも、現代においても、「女性脳」「男性脳」などの誤った俗説に見られるように、女性と男性の考えや能力は異なるという見方は根強いものがあります。これはひとえに、女性と男性の身体が異なるという事実に根ざしています。 女性と男性で身体が異なるのは、明確です。程度の差はあれ、女性が持ついくつかの身体的な特徴、男性が持ついくつかの身体的な特徴というのは、目に見ることができます。この身体の違いがあるという明確な事実から、私たちは自然に、女性と男性の脳も異なるだろうと考えがちです。この思い込みは強く、私たちの行動や心の性差にも大きな影響を与えてしまいます。 知能の研究の歴史の中でも、身体が小さい女性は、男性と比べて知能が低いと考えられてきました。たとえば、心理学者は、脳の大きさと関係すると考えられていた頭蓋骨は男性のほうが大きいとか、脳の重量は男性のほうが重いとか、男性の知能が高いという主張につながりそうな証拠に目をつけました。一方で、身体に対する脳の大きさの比率など、どちらかというと女性に対して有利になりそうな証拠には目をつぶり、男性の知能が高いという主張を続けてきたわけです。 これは、研究者としては明らかに失格です。要するに、先に結論があり、その結論に沿う結果のみ報告しようとする、ある種の捏造とも言えます。 実際にIQの性差にかかわる研究は膨大な数にのぼります。これらの結論を述べると、様々な能力を含む一般知能についていえば、女性と男性には違いはありません。全体的な頭の良さには性差はないのです。これは心理学が出している結論です。 ただ、ここには3つの注意点があります。1つ目は、これはあくまで平均値の話ということです。2つ目は、個別の研究ではなく、様々な研究を含めた俯瞰的な研究の結果だということです。そして、3つ目は、これは様々な能力を含む一般知能の話であり、能力を個別に見ていくと違うところがあるということです。以下に、それぞれについて見ていきたいと思います。