異例ずくめの朝鮮大学校生の訪朝 浮き彫りにした韓国敵視政策の迷走ぶり
韓国敵視政策は混乱を招いているだけ
また、朝大生たちは、生まれも育ちも日本だ。物の見方や考え方はほとんど日本人と変わらない。北朝鮮も歴代、訪朝した朝大生たちを対象にした講義には、「それなりにマイルドな教え方ができる講師」(関係者)を選んできた。いきなり、金正恩独裁政治を叩きこもうとすれば、朝大生がびっくりしてついてこれなくなるからだ。逆に言えば、朝大生を北朝鮮の人々の間に放り込むことに、北朝鮮は緊張しているのかもしれない。特に最近は米韓などからの情報流入に敏感になっている。「北朝鮮が作る訪問プログラムしか認めない」と通達したのも、そのせいだろう。 結局、北朝鮮は「最大の海外支援団体」という朝鮮総連を失うわけにもいかず、嫌々受け入れたというのが本当のところだろう。一部のメディアが指摘しているような、「思想教育の強化」というような「積極的な理由」ではないようだ。 一方、北朝鮮が在日朝鮮人に対し、間もなく完成が見込まれている日本海側の「元山葛麻海岸観光地区」の利用を求めてきたとの未確認情報が、在日朝鮮人の間で最近流れている。2016年夏に韓国に亡命した北朝鮮の太永浩・元駐英公使によれば、観光リゾートホテルやサッカー場など約170棟の建築物で構成され、金正恩氏は年間100万人の海外からの観光客を見込んだという。制裁や新型コロナの影響などで工事は中断していたが、中国やロシアなどからの建築資材や内装品の輸入にめどがつき、今年の末までの完成が見込まれている。 北朝鮮は現在、ロシア人観光客の利用を予定しているが、中朝関係の悪化から、年間30万人が訪朝した時期もあった中国人観光客の利用のめどは立っていない。焦った北朝鮮は、在日朝鮮人が祖国訪問する場合、平壌旅館に代わる拠点として元山葛麻海岸観光地区のホテルを使う可能性について検討しているとみられる。 平和統一は、金日成主席や金正日総書記も追求した北朝鮮最大の政策だった。在日朝鮮人だけではなく、北朝鮮本国の人々も「貧しくて苦しい生活を変えるのは、統一しかない」と考えている人が多いという。金正恩氏がこの政策を捨てたのは、「韓国を敵と位置付けないと、市民が韓国文化の影響を受け続け、最後は韓国に飲み込まれる」という恐怖感があったからだろう。 しかし、朝大生の訪問に対する処遇など、北朝鮮の動きをみていると、韓国敵視政策は混乱を招いているだけで、むしろ、金正恩体制が自分の首を絞めているようにしか見えない。
牧野 愛博