福井県三國湊で開業した「町まるごとオーベルジュ」、NTT西日本らが推進する地方創生、その取り組みを取材した
三國湊が選ばれた理由は?
通信会社のNTT西日本が観光に力を入れる背景には、少子高齢化、人口減少が進むなか、通信事業だけに頼らない新たなビジネスの構築がある。同社では、地域の事業者や自治体とともに観光による地方創生を事業化する計画を立て、日本最大級の輸出産業であるインバウンドと関係人口の創出が期待できる国内旅行に注目。NTT西日本ののリソースやノウハウを活かしながら、地域の社会課題の解決の一つとして、まちづくりを中心とした観光事業に取り組んでいる。 樋口氏によると、NTT西日本管内30県のうち4県が観光による地方創生事業に手を挙げたという。そのなかで、福井県の三國湊が選ばれた理由の一つに、NTT西日本で「地域プロデュースアドバイザー」を務める豊島順子氏の助言があったという。豊島氏はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)でマーケティングを担当。県立恐竜博物館のブランディングにも携わった。その豊島氏が三國灘の観光の潜在性の高さを伝えたという。 また、樋口氏は「北前船文化をはじめとする質の高い観光コンテンツが豊富」と指摘。DMOさかい観光局の八杉茂樹事務局長は、太平洋戦争で三國湊は空襲にあわず、昭和23年の福井地震でも大きな被害が出なかったことから、「昔ながらの『かぐら建て』の家屋が奇跡的に生き残った。それが今になって利点になっている」と話す。 さらに、谷根氏は三國湊の土地柄にも触れた。「三國湊は郷土愛が強い一方、交易で栄えた地区であるため、外から人を迎える風土も残っている」。持続可能な観光地域づくりには欠かせないシビックプライドとホスピタリティの高さという無形の資産も、三國湊が選ばれた背景にある。 加えて、樋口氏が強調したのが「観光によるまちづくりに対する地元の熱意」だ。三國湊のまちづくりでは、旧森田銀行の保存に尽力してきた「三國會所」、東京大学都市デザイン研究所によるまちづくり法人「アーバンデザインセンター坂井(UDCS)」などさまざまな団体・組織が取り組んでいる。 坂井市も、東京大学による空き家調査の結果から、「このままでは町がなくなる」(谷根氏)との危機感を共有した。2013年から町家などの空き家を保存・改修し、活用する町づくり「三國湊町家活用プロジェクト」を開始。その一環として、町家をゲストハウスにリニューアルし、2015年に「詰所三國」としてオープンした。 「地元の熱意」の素地があるところに「Actibaseふくい」が参画してきた。谷根氏は「これまでさまざまなことに取り組んできたが、まだまだと感じている。NTT西日本のような外の視点はありがたい」と話す。