「テルマ」美の協奏 律儀なエレガンスは躍動する
モデルの動きの個性に合わせて、後身頃を長く仕立てたトップスの裾がなめらかにゆらぎ、オーガンジーのフリルスカートやリボンが軽やかに弾む。正面からは華やかで、横切る際にシルエットのクセに気が付き、後ろ姿に余韻を残す。この連続により、「テルマ」のスタイルと女性像が徐々に浮き上がっていく。
重厚感と軽快さと
そのムードに緩急のリズムを加えたのが、素材を使った視覚効果の数々だ。例えば、ジャージートップスに何層にもコーティングしてムートン調にしたり、デニムをレザー調に加工したり、オーガンジー2枚にオプティカルアートを同時プリントし、モアレのような錯覚を演出するドレスだったり。この遊び心も「服の可能性を信じ、装う楽しさを伝えたい」という「テルマ」のアイデンティティーだろう。
優しい色彩と、重なり合う一枚の布に世界観を与えるのが、中島デザイナーが愛する花のモチーフだ。カモフラージュのようにコートに敷き詰めた花の数々や、アルミホイルで作ったヒマワリのブローチ、配置を緻密に計算したコスモスのペイントが、生地開発の執念と新しいシルエットの探求心、多彩なプリントの高揚感を一つの世界観に美しく調和させる。中島デザイナーのクリエイションは、全方位の美に全力で向き合い、突き詰め、それらを衝突させてスタイルにつなげていく手法だ。軽やかさは、ショーの表現を経て今後さらに身についていくはずだし、「ドリス」とも「イッセイ」とも違う、日本らしい律儀なエレガンスが「テルマ」にはある。
全力感と脱力感と
フィナーレを終え、慣れない囲み取材を終えると、ショー前は落ち着かなかった男が、真っ赤な目と晴れやかな表情で現れた。「チームの力が大きい。人と人が連動しながらブランドをそれぞれに解釈し、一つのものを目指す。そこに生まれるダイナミズムを体感した」と、手応えをつかんだようだ。ショー開催の目的は「表現の幅を広げて、次のフェーズに進むため。パリでの展示会に向けて、成長していきたい」から。現在の卸先は国内のみで、大手百貨店やセレクトを中心に23社約40店舗。海外への本格進出に向けて、全方位の美に全身全霊を捧げる全力男は、大きな一歩を踏み出した。ようやく表情を崩したのは、ショーを中と外からサポートしてくれた家族の話題になったときだった。