山積するタスク 車載ソフトウェアの開発現場はどうしてる? 2枚のボードで「人中心」の品質革新
「お助けボード」 もやもやを感謝に
もう1つは、従業員満足度を高める視点のもの。「お助けボード」と呼ばれている。 チーム毎に助けの声を集めた「ミニお助けボード」の全社版で、経営陣まで声が届くエスカレーションボードといったところだ。 こちらのボードも、縦に人の名前が並んでいる。 上から順に、社長、役員、ビジネスユニット長、各センター長、各リーダーと続き、それぞれの顔写真の横に「未着手」「お助け中」「完了」という枠を設けた。 未着手の枠に、お助けカード、グレーニュースというものを張り付けることから始まる。 グレーニュースとは同社が用いる言葉で、リスクが顕在化する前の事案、どちらに転ぶか分からない問題を言う。 これらを1枚のボードに集めることで、バッドニュースになる前のもやもやした気づきを、上位層も含めていち早く察知・対策していくという。 お助けボードの狙いは、「透明性と公平性の担保」「スピードある全員経営」「心理的安全性」「孤独の解消」の4つ。 貼ってくれたらまず感謝!という標語が、この取り組みを価値あるものにしている。
ソフトウェアを創るのはやっぱり人
規模が広がるばかりのソフトウェア開発の現場では、属人化・暗黙知・高稼働状態が課題となっている。 埋もれてしまいそうなバラツキや気づきを2枚のボードに炙り出せば、誰でも開発のマネジメントを再現でき、1人ひとりの力を活かせる環境・風土作りを継続していける。 これ以外にも、知識・ノウハウの標準化&見える化、開発後期の状況を予測する予測型マネジメントの導入。また、コロナ禍で定着したリモート開発、それに自動テスト・自動評価・自動解析といったプロセスの自動化を進めることで、ソフトウェアがリリースされるまでのフローを高速駆動する環境を整えてきたという。 こうした取り組みは、人中心のマネジメント革新として評価され、日本科学技術連盟から「品質革新賞」を授与されているから聞いたことがある人も多いだろう。 また、パナソニック オートモーティブシステムズ社はレクサスNXの北米・欧州向けIVI(インビークル・インフォテインメント)も開発しており、その際にトヨタから技術開発やプロジェクトの表彰を受けている。 2022年度、同社の中でインフォテインメントの事業は、売上が4855億円に達した。パナソニック オートモーティブシステムズ全体の売上が約1.3兆円だから、4割近くを占めることになる。 ハードよりもソフトウェアがクルマの価値を決める時代は、魅力あるソフトの開発がものを言う。もっといいクルマを、もっと早く作るために、人を活かす組織力がますます問われている。
徳永徹(執筆)