喫煙で失われるのは歯だけではない/医学博士照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<25> 硬いものをかんで奥歯が割れてしまった、外傷で前歯をぶつけたなど、インプラント(人工歯根)の相談にいらっしゃる方の理由はさまざまです。1本2本という、限局した部位であれば、何らかの原因で歯に過度な力がかかり不幸にも抜かざるを得なかったという経緯はよくあることです。 なくなった部分をインプラントで補うとしても、他の天然歯が多く残っていることで力の分散が図れます。長期的に安定する未来が想定でき、安心感をもって治療を進めることができるので、現段階で最善の選択と答えることが可能です。 一方で、広範囲に歯を失い、とうとう何もかめなくなった、見た目を家族に指摘された等の理由で仕方なく歯科医院にいらしたという方にも結構な頻度でお会いします。その大半が喫煙者なのですが、「タバコが体に悪い」という認識は全員にあるものの「歯が抜けてしまった原因がタバコである」という事実を知っている方があまりに少ないことに驚きます。 喫煙が肺がんの危険因子であることは広く知られており、喫煙者は非喫煙者と比べて男性で4・4倍、女性で2・8倍肺がんになりやすいというデータがあります。吸い始めた年齢が若く、喫煙量が多いほどリスクが高いこともわかっていますし、受動喫煙(周りにいる喫煙者から煙を吸ってしまうこと)も発がんの危険性を2~3割高めてしまうといわれています。 しかしながら、肺よりも前の段階でタバコの有害成分が直撃するのは口の中です。1日に10本以上の喫煙で歯周病リスクが5・4倍に、10年以上の蓄積で4・3倍になるという有名な統計がありますが、何よりも問題なのは歯周病の重症化につながる、すなわち広範囲に歯を失う傾向にある点です。歯のみならず、歯を支える骨までもがダメージを受け、弱く脆いのが特徴です。当然、インプラントが生体と親和し機能する確率も非常に低いです。