〈訪米の賭けに失敗したネタニヤフ〉“三股外交”で政権継続狙うも、逆に窮地に
イスラエルのネタニヤフ首相は訪米で「政治的延命」を図るというギャンブルに出たが、その思惑は外れた。首相はバイデン大統領と民主党の次期大統領候補ハリス副大統領、加えて共和党候補のトランプ前大統領と会談して“三股外交”を展開した。だが、逆にガザ戦争の早期終結を迫られる格好となり、その窮地は深まった。
四面楚歌
首相の立場は現在、四面楚歌状態だ。国内的には、ガザ戦争をめぐり政権内の2つの勢力から強い圧力を受け、政権崩壊の脅威に神経をとがらす日々だ。その圧力とは、一つは極右の有力閣僚であるベングビール国家治安相とスモトリッチ財務相からのどう喝だ。 2人は首相がもし、パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスを壊滅しないまま、停戦に合意すれば「政権から離脱し、崩壊させる」と公然と主張しているほか、ベングビール氏はパレスチナ側との取り決めを破ってイスラム教の聖地に入り、パレスチナ人への挑発を繰り返している。 もう一つの勢力は超正統派ユダヤ教の宗教政党「ユダヤ教連合」と「シャス」。両党は最高裁がこのほど、超正統派ユダヤ教徒が受けてきた「徴兵免除」に違法判決を出したことに伴い、徴兵手続きが行われつつあるのに反発。政権離脱を仄めかし、首相は引き止めるのに躍起になっている。 与党リクードの中でもネタニヤフ首相が戦後のガザ統治問題をあいまいにしていることに、ガラント国防相らが反発。停戦協議をめぐっても、首相は交渉担当のイスラエルの対外特務機関モサドのバルネア長官と対立している。ガザからの早期撤退を主張する軍ともギクシャクし、うまくいっていない。 野党は首相の退陣と早期総選挙を要求し、ハマスに捕らわれている人質の家族らの反ネタニヤフ行動は激しくなる一方。世論調査では国民の3分の2が首相の辞任を要求している。
こうした国内状況に加え、北方のレバノン国境地帯ではシーア派武装組織ヒズボラとの交戦が激化、レバノン侵攻さえ強いられかねない情勢だ。戦争になれば、アラブ各地から数千人の義勇兵がヒズボラに参戦すると報じられている。 さらにこのところ、1600キロメートルも離れたアラビア半島のイエメンの反政府勢力フーシ派から長距離ドローンやミサイル攻撃を受けていることも大きな懸念の的だ。7月19日に最大都市テルアビブが攻撃されたのに対し、イスラエル空軍が報復爆撃したが、ガザ戦争が終わらない限り、緊張は緩和されまい。