教員・人事担当者は必読、生時の性別と異なる性別で生きる人びとが直面する社会的課題―周司 あきら,高井 ゆと里『トランスジェンダー入門』橋爪 大三郎による書評
LGBTQのTは「トランスジェンダー」のT。出生時に決められたのと反対の性別を生きる人びとだ。男性↓女性の「トランス女性」とその反対の「トランス男性」で、人口の○・五%ほど。男女の別を当然とする社会で無理解に苦しんでいる。 学校は男女に分かれ、男らしさ/女らしさを押しつける。就職でも日常生活でもいちいち男女を確認される。出生時の性別のままの「シス」の人びとに当然な制度が、「トランス」の人びとには責め苦なのだ。 ひと昔前まで「性同一性障害」と病気扱いされた。いまはWHOや医療組織も「トランス」を病気と扱わない。本人の生き方を尊重し支援すべきで、要は人権問題なのだ。 日本でも外国でも「トランス」の人びとへの偏見や差別は根強い。家族や周囲の理解がえられずに苦しみ孤立する。いじめにもよくあう。ホルモンの投与や手術は高額で負担になる。同性愛(ゲイやレズビアン)と一緒くたにされ、脇役である。そもそもトランスジェンダーを紹介する本は、わが国になかったのだ。 本書は内容がありすぎて全部は紹介できない。詳しくは手に取って。特に教員や人事担当者は必読だ。 [書き手] 橋爪 大三郎 社会学者。 1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。 著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。近著に『裁判員の教科書』(ミネルヴァ書房)、『はじめての言語ゲーム』(講談社)がある。 [書籍情報]『トランスジェンダー入門』 著者:周司 あきら,高井 ゆと里 / 出版社:集英社 / 発売日:2023年07月14日 / ISBN:4087212742 毎日新聞 2023年9月2日掲載
橋爪 大三郎
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