55歳以上の人向けスペイン発SNS「Vermut」が目指す「孤独にならない社会づくり」
社会的なつながりが健康への道
――Vermutを始めた理由を教えてください。 新型コロナが感染拡大していた時、私たちは完全に外出できなくなりました。この期間は、もう1人の創業者であるエンリックと私にとって、それぞれの両親を見つめる機会になったんですよね。 お互いの両親はすでに退職していたのですが、彼らがどんな生活をしていたかというと、食料品の買い出しに出かけて、ちょっと運動して、一日中テレビを見て、薬局に行って、料理を作る。それで1日が終わるんです。当時は、両親の社会生活が本当に縮小していたのを実感しました。私はなんだか悲しくなりました。でもこれは私たちの両親だけの話ではなく、スペインの多くの高齢者が同じような生活を送っているんです。 後日データを調べたところ、社会的な繋がりがないと、精神疾患を患う可能性が高くなるそうなんです。孤独になることが、健康を損なうことにつながると証明されていると知って驚きました。 一方で、私たちはこの「55歳以上」というターゲットグループが巨大でありながら、誰も注目していないと思ったんです。さらにこのターゲット層、いわゆる元気な高齢者は意外と社会の狭間にいることにも気がつきました。 彼らは若い世代、中高年世代には当然属さないが、病院にかかりっきりの人々のグループでもない。寿命が伸び、70代、80代でも、精神的にも、身体的にもまったく問題ない人がたくさんいますが、そうした人が取り残されている。だから私たちが彼らのためのプラットフォームを作り、良い生活を送れるようにしようと考えたのです。 ――Vermutは基本的に無料で利用できます。会社はどのように利益を得ていますか? 利用者は基本的に無料で利用できますが、月額、年額払いの有料メンバーシップもあります。 またパートナーからは、アクティビティを主催するにあたって、毎月20ユーロから50ユーロのプラットフォーム利用料をいただいています。 このほかに現在は、BtoBでの利用促進にも力を入れています。私たちは広告を期待しているわけではありません。例えば、55歳以上の従業員や55歳以上の親を持つ従業員がいる企業に、福利厚生として提供したいと考えています。企業間取引で、会員にサブスクリプションの料金を支払ってもらうことで、別の収益源を確保するという考えです。すでに複数企業と話が進んでいて、早ければ今年9月に取引開始する企業があるかもしれません。 ――今後、取り組みたいことはありますか? ええ、もちろんありますよ。私たちは、人々の老いに対する感覚を変えたいと思っています。 私たちの目標のひとつは、社会から老いに対する恐れをなくすこと。そのためには、社会的な偏見を変えるべきです。私たちができる最初の一歩が、変化をもたらす機会を作ることです。 利用者の皆さんにアクティビティやコミュニティを楽しんでもらうことが第一。そして次のステップは、利用者がコミュニティ内で影響力を持ったり、旅行ができるまでに仲良くなることです。第三段階としては、利用者がコミュニティ内での影響力を利用して収入を得ることができるようになることです。 具体的な内容などは今後決まって行く予定です。ただ、人々が長生きするようになると、年金だけでは足りなくなるので、何かしら定年後も仕事などをし続けなければならなくなります。将来的にはそういうこともできたらいいなと考えています。
文:星谷なな/編集:岡徳之(Livit)