55歳以上の人向けスペイン発SNS「Vermut」が目指す「孤独にならない社会づくり」
――Vermutでのアクティビティは誰が主催しているのですか? Vermutには「パートナー」と呼ばれる人たちがいます。例えばヨガの先生や哲学や歴史の先生、パーソナルトレーナーのような人だったりします。そうした人がアクティビティを企画しています。 またはユーザー自身がアクティビティを主催することも可能です。アプリで簡単に作成できるので、例えば、散歩に行こう、夕食に行こう、劇場で演劇を観よう、などと企画して、一緒に行きたい人を募ることもできます。 技術的にもとにかく簡単にアプリを使えるのが魅力だと思っています。この簡単で55歳以上の人たちのためのSNSというのは、世界的に見ても他にないのではないでしょうか。
――そもそも“Vermut”とはどういう意味の単語なのですか? Vermutとは、ワインベースにハーブやスパイスを漬けて作られるお酒で、スペインでは食前酒として楽しまれています。でもこの言葉は飲み物だけでなく、人々が会って交流する文化自体も指すんです。 どういうことかというと、日曜日などに昼食の前や夕食を自宅で摂る前に、散歩に行くんですよね。散歩中にカフェやバーに立ち寄って、友人と会って、おしゃべりをする。それから家に戻ってランチやディナーを楽しむ。この儀式とも呼べる文化は、60代以上の世代の人がよく行うものです。 だから、利用者の皆さんは「Vermut」と聞くと、お酒だけが目的ではなく、人に会って社交的になるためのものだと理解してくれると考えて、SNSの名前をVermutとしました。
――利用者の数は何人ぐらいいるのでしょうか? 現在、9万人います。うち8万人がスペインでのユーザーです。あとアメリカに2~3,000人、アルゼンチンやコロンビアなどにも利用者がいますよ。いずれ日本にも進出したいと思っています。 利用者全体のうち、70%が女性です。やっぱり女性は社会的スキルが男性よりも高いと思いますね。 現状、男性は全体の25~30%に留まっています。男性が少ない理由を分析していますが、彼らの多くはVermutで新しい友人ができても何の話をしたらいいのか分からないようです。 また家庭内での役割の変化も関係していると考えています。現役時代には家族のために働き、家族を支える存在でした。でも定年後はその役割を担っていない。役割がなくなって、定年退職後の生活に不安を抱えている感じがします。だからこそ外に出て話をするといいと思うのですが、多くは「私はVermutをやる必要はない。私は大丈夫だ」と、こもってしまう。そして妻だけがVermutのアクティビティに参加する例も少なくないですね。 ――高齢者はなぜ孤独になりがちなのでしょうか? 歴史的に見ると、以前は平均寿命が短かった。もっと言えば、健康でいられる寿命はさらに短かった。だから定年退職した数年後に子どもと同居して、短い時間を一緒に過ごす光景がよく見られました。 でも今は必ずしもそうなるとは限らない。人々の仕事が“グローバル化”したので、多くの若者が地元を離れて、他の都市や国に行くようになりました。だから、高齢者の中には自分の子供たちが自分の街に住んでいないことがある。近くにいたとしても息子や娘たちも親のために暮らさない選択をする人もいますしね。 最後の理由としては、退職後に離婚や別居をする人が多いことです。一人暮らしになる人がたくさんいる。退職すると、仕事もない。かつ子どもも成長して、子育ての必要もない。仕事や子育てをすべて取り除くと、定年退職した人が社会生活に戻るのは本当に難しくなるんです。 ――利用者からはどんな声がありますか? 10人中8人が「人生を変えるもの」だと答えています。 例えば、ある女性は夫と死別して、「人生もうダメだ」なんて思っていたけど、Vermutとの出会いに完全に救われたと話してくれました。「今はいい友達もできたし、毎週出かけて本当に楽しい」と言ってくれています。そう言われるとすごくやりがいがありますね。アプリの中で魔法が起きているような感じです。