〝叛逆老人〟86歳のルポライター鎌田慧は社会の断面を書き続ける 冤罪、原発、労働…全12巻の選集刊行開始 「完結まで死ねない」
「鎌田慧セレクション」は第1巻から順次、冤罪、原子力発電所、自動車・鉄鋼・炭鉱などの労働問題、教育と家族、成田空港反対闘争と国鉄の分割民営化、沖縄のテーマに沿って刊行される。一連の仕事をたどると、日本の現代史がおのずと浮き上がってくる。「とにかく問題意識というんですかね。社会がどうなっているかということへの関心を持ち続けてきた」。そんな姿勢が時代時代の事象、大切ではあるが、ともすれば置き去りにされかねない出来事をすくい取ってきた。 冤罪がテーマの第1巻が発売された9月、折しも1966年に起きた4人殺害事件の再審で袴田巌さんに無罪判決が出され、10月には福井市の女子中学生殺人事件の再審開始が決まった。自身は死刑確定者が再審無罪となった財田川事件に1973年から関わってきた。以後、狭山事件、袴田さんが無罪となった事件、足利事件、布川事件など多くの現場に足を運び、関係者の取材を重ねた。 冤罪事件には司法が抱える問題点が凝縮されているという。「検察が抗告したりすると長引いてしまう。袴田さんの事件で検事総長が訳の分からないコメントを出したり、今の司法にはすごい問題がある」
独自の取材で大手メディアに先駆けての特ダネもものにしてきた。弘前大学教授夫人殺人事件では真犯人へのインタビューを世に出し、長崎・対馬のイタイイタイ病が疑われるカドミウム汚染では、会社側が汚泥を事業所から上流に運び、自然由来の汚染を装ったことを内部告発を基に暴いた。 ▽生涯ルポライター 書くだけではなく現場に出て行動する人でもある。成田空港建設反対運動、国鉄の分割民営化、2011年3月の東日本大震災と福島第1原発事故を受けての「さようなら原発」、「マスコミ九条の会」などに積極的に関わってきた。 「つい、なっちゃうんですよ。成田では農民たちがどうしているのか見に行っているうちにはまっちゃって。(再処理燃料基地の)青森県六ケ所村も原発も取材してたけど、事故が起きて、沢地(久枝)さんとか坂本(龍一)さんとか知ってたから『さようなら原発』を始めたとか、なんかついやっちゃう。あれがないともっと本を書いていた」と苦笑いする。