「アメリカ映画の定義を変えることができたと思う」映画『パスト ライブス/再会』主演のグレタ・リーが語る、ハリウッドの現在とは?
――映画の中でイニョン(縁)という言葉が重要な考え方として出てきます。実生活で多くの時間をともにしたり、恋人として身体的に深く結びついたりすることとは別に、離れていても現世では無理でも、生涯切っても切れぬ関係性のことかと感じましたが、グレタさん自身はイニョンという考え方に親和性を持ちますか? 私自身は韓国におけるイニョンという概念をあまり知らずに育ちました。祖父母の世代が口にしていた言葉で、小さい頃は、あまり共感もできなかったから、私の人生には直接影響がなかったの。でもこの映画に参加し、完全に変わりました。イニョンは決して抽象的でも、高尚な概念でもなく、日常にある価値観だとわかったから。それは、いま目の前にいる相手と、もしかしたら前世や来世でも繋がっているかもしれないという考え方。もしかしたら結婚相手かもしれないし、単に道ですれちがうだけの相手かもしれない。人はそういうふうに繋がっているのだと気付けて、いまとなってはうれしく思います。また妻として、親として、私たち人間の実存主義的な生き方も意識するようになりました。あまり暗い話はしたくないけど、人生は儚く、いつかは終わりを迎える。だから輪廻とか、イニョンという考え方は、私たちが死と向き合わなければいけない時、それを受け入れるための美しいひとつの手段なのかもしれない。人生は一回きりということを理解する上でね。
――20歳の時から20年近く、アメリカのエンターテインメントの中で、数少ないアジア人女性の役柄を広めるために活動されてきたわけですが、この『パスト ライブス/再会』での大成功で、ガラスの天井は一気に破れるような状況になったでしょうか? それはとても複雑な質問だから、私には答えられないかもしれない。正直、何も確信は持っていないけど、こういうチャンスはもっと早く来るべきだったと感じている。もちろん私だけではなく、私のようなアジア系の外見の役者全員にね。『パスト ライブス/再会』のような物語の中心となる人物を、アジア系俳優が演じられる機会が訪れるのに、こんなに時間がかかったことが信じられないくらいです。この映画を作ったことによって、アメリカ映画の定義を変えることができたと思う。この映画は私がキャリアをスタートさせたニューヨークで撮影したの。アメリカンドリームの象徴でもある自由の女神の前でも。A24と組んで、韓国語のセリフで、35ミリカメラを用いて撮影できたことは、大きな前進であると感じます。同時に、これで他の人にも大きく道が開けたかどうかは、まだ慎重にならざるを得ないわ。それが今後の最大の課題だと思う。この映画が例外にならないように。