「アメリカ映画の定義を変えることができたと思う」映画『パスト ライブス/再会』主演のグレタ・リーが語る、ハリウッドの現在とは?
第96回アカデミー賞で、メガヒット作『オッペンハイマー』や『バービー』と並び、ある新人監督の作品が作品賞と脚本賞にノミネートされた。A24製作、セリーヌ・ソン監督の初の長編映画で、彼女の自伝的な内容を帯びる『パスト ライブス/再会』である。 12歳の時、韓国からカナダへと移住した少女ノラは、24歳で初恋の相手ヘソンとSNSを通じて再会。ソウルとニューヨークと距離は離れていても、誰よりも心が通じ合う感覚。しかしふたりにはそれぞれの将来設計が。月日は流れ、36歳の時、ヘソンは意を決しノラに会いに来る。ひとりの男性が人生を切り開いていく中で、ずっと心の支えとしたノラを演じたのはグレタ・リー。ロサンゼルス出身の韓国系移民2世で、名門ノースウェスタン大学で演劇を学んだが、長い間アジア人女性という枠の中での限られた役しか与えられてこなかった。ガラスの天井を打ち破るために、彼女はプロデューサーとして企画を立て模索し、40歳でブレイクスルーとなるノラ役と出会った。口コミで全米中に公開が拡大し、グレタの存在も注目され、ファッションアイコンとしての地位も高める彼女に話を聞いた。
――あなたの演じたノラは12歳でノーベル賞を取りたいと願い、24歳ではピュリッツァー賞、36歳ではトニー賞と、常に「something=何か」になることを目指す知的な女性です。ノラ役はセリーヌ・ソン監督のこれまでの歩みが反映されていると同時に、移民二世であるあなた自身の、俳優として苦労しながら幅を広げてきた半生とも重なり合う女性です。演じる上ではセリーヌとご自身の要素をどういう比率のブレンドで演じられたでしょうか? 初めて脚本を読んだ時から、ノラのイメージはとても明確に見えていました。でも次第に不安が増してきたの。「私に韓国人が演じられるかしら? 私ではアメリカ人すぎないかしら? 韓国語がうまく話せないのでは?」と。主演は初めてだったから、正直「いまの私に務まるかしら」とも思いました。なので、私自身が幼い頃に観たかった映画とヒロイン像を思い描くようにしたの。そもそも、私のような外見のヒロインが登場するアメリカ映画はほぼゼロで、これまで私とは違うタイプの人間に、自分を投影して映画を観てきた。だから「これは二度とないチャンスかもしれない」と思うようにしたんです。ノラは私自身が理想とする人物像として演じようと決意したことで、ある意味、これまでのキャリアにおいて、最もセルフエスティメイト(=自己中心的)でクリエイティブな経験でした。