【氏原英明が選ぶ甲子園ベストナイン】投手では小松大谷・西川と京都国際・西村、ドラフト候補ひしめく遊撃は今大会の“象徴的存在”を選出<SLUGGER>
第106回全国高校野球選手権大会は京都国際が初優勝を果たした。2人のサウスポーを中心にした“負けない野球”は、低反発バット導入後初の夏に最も適したスタイルだった。 【動画】1点差の二死満塁から最後はスライダーで空振り三振! 京都国際が甲子園100周年の夏の頂点に立つ ホームラン数の激減もあり、打つ方での活躍はあまり見られなかった一方で、守備力が目立ったことも大会の特徴だ。そういった部分も踏まえ、今大会のベストナインを選出してみた。 まず、右投手は小松大谷の西川大智だ。2回戦で強打の大阪桐蔭打線を相手に100球以内の完封勝利、いわゆる「マダックス」を達成したのには度肝を抜かれた。コースの投げ分け、前半と後半で配球を変えるマネジメントなど「投球術」に光るものを見た。すべて救援登板で自責点0の坂井遼(関東第一)、ベスト8に唯一右腕で残った滋賀学園の脇本耀士(滋賀学園)なども印象に残ったが、球速に囚われないピッチングを魅せた西川を選んだ。また、中京大中京の背番号「20」宮内渉吾も将来性豊かな右腕として気になった投手だった。 左投手では胴上げ投手になった西村一毅(京都国際)を選出した。今大会は特に左腕の活躍が目立ち、中でもチェンジアップの使い手が存在感を示した。これはチェンジアップという球種が低反発バットにおいてとりわけ効果を発揮することの証左でもあるが、西村のチェンジアップは特筆物だった。まだ2年生。これからどのように成長していくのか。語り口などを見ると、山崎福也(日大三→明治大/現日本ハム)の姿が重なる。 この他、東海大相模の長身左腕・藤田琉生は上背の割に器用な投球スタイルで打者を圧倒した。3種類のチェンジアップを使いこなした田近楓賀(智弁学園)、“大社旋風”の立役者・馬庭優太、U-18代表にも選出された桜井椿稀(鶴岡東)、西村と二枚看板を形成した中崎琉生(京都国際)、力投型の中村心大(早稲田実)も好投手だった。 捕手は大会前から下馬評の高かった箱山遥人(健大高崎)が存在感を示したものの、インサイドワークで目立った熊谷俊乃介(関東第一)を選出した。3人の投手を操り、決勝戦ではウェストして京都国際の足を封じるなど頭脳明晰。準決勝戦では同点タイムリーを放つなど随所で活躍を見せた。 一塁手はなかなかの混戦だった。越後駿祐(関東第一)、3回戦でバックスクリーンの右に本塁打を放った青森山田の主砲・原田純希、勝負強い打撃の佐坂悠登(智弁学園)、守備が光った國光翔(早実)などがいたが、打棒で強い印象を与えた原田を選出した。 二塁手は大会第1号本塁打を放った柴田元気(東海大相模)、神村学園の斬り込み隊長・増田有紀、センバツVにも貢献した高山裕次郎(健大高崎)などこちらも激戦区。その中でも、滋賀学園のリードオフマン・多胡大将はチームを牽引する活躍を見せた印象が強く残った。 三塁手は大会屈指の好投手・藤田から本塁打を放った高橋徹平(関東一)、個人的に好印象を持った園山純正(大社)、早実の3番・高崎亘弘、2年連続4強の神村学園の岩下吏玖ら渋い活躍した選手が多かったが、木製バットでの本塁打を記録した花田悠月(智弁和歌山)を選出した。 遊撃手はドラフト候補が目白押し。石塚裕惺(花咲徳栄)、宇野真仁朗(早実)、中村奈一輝(宮崎商)藤本陽毅(京都国際)は噂通りのポテンシャルを見せつけたが、ここはやはり今大会の象徴、守備で再三の好プレーを見せた市川歩(関東一)を推したい。 外野に移ろう。左翼手は独特な構えからチームを牽引した京都国際の金本祐伍を選出。決勝戦の延長10回表、無死満塁で先制の押し出し四球を選んだ。相手のミスのように思えるが、打ちたくなる展開の中、よく選んだ四球だった。 中堅手は、守備では飛田優悟(関東第一)が準決勝戦で9回2死から“奇跡のバックホーム”を演じるなど活躍。足では大社のリードオフマン・藤原佑など一芸に秀でた選手が多かった。だが、ここは総合力で勝る澤田遥斗(京都国際)、攻撃的2番打者の入来田華月(神村学園)に絞り、最終的に入来田を選出した。 右翼手は、大会前は境亮陽(大阪桐蔭)、正林輝大(神村学園)が注目を集めていたが、蓋を開けてみると、2年生の独壇場。長谷川颯(京都国際)、佐藤洸史郎(青森山田)、中村龍之介(東海大相模)の中から、広陵戦で4打数4安打と大爆発し、苦手なコースが見当たらなかった中村を選出した。 ■2024夏の甲子園ベストナイン 【右投手】西川大智(小松大谷) 【左投手】西村一毅(京都国際) 【捕 手】熊谷俊乃介(関東第一) 【一塁手】原田純希(青森山田) 【二塁手】多胡大将(滋賀学園) 【三塁手】花田悠月(智弁和歌山) 【遊撃手】市川歩(関東第一) 【左翼手】金本祐伍(京都国際) 【中堅手】入来田華月(神村学園) 【右翼手】中村龍太郎(東海大相模) 取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト) 【著者プロフィール】 うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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