【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第22回「鮮やか、一本?」その3
勇み足は弾みでやることが多く、いろいろな思いがからみがち
新型コロナに振りまわされ続けた2020年。 みなさんにとって、2020年はどんな年でしたか。 なんか、締まらない年だったな、という人のために、ピシッと決まる話をしましょうか。 昔は、相撲の技は四十八手でしたが、最近は八十二手もあります。 これ以外に非技、いわゆる勇み足、つき手、腰砕けなどの勝負結果が五手です。 これらが、それもあまり見たことがないような技が、もののみごとに決まったときの力士たちの晴れやかな顔といったらありません。 そんな鮮やかな技や珍手にまつわる3つの話です。 平成26年九州場所6日目、この場所2つ目の金星 勇み足でも金星 勘違いって、誰でもするものです。平成26(2014)年九州場所3日目、横綱日馬富士に挑戦した東前頭3枚目の髙安は、 「受けにまわらないように手数を出していこう」 と軍配が返ると、猛然と突っ張り、先手を取った。そして、日馬富士が左上手を取って寄ってきたところを土俵際で左からタイミングよく突き落とし、前のめりになり、渡し込もうとした日馬富士の左足がわずかに俵を割った。金星だ。 ただ、館内に放送された決まり手は「突き落とし」ではなく、「勇み足」。不覚をとった日馬富士は、 「突き落としだろうと、勇み足だろうと、負けは負けですから」 とさっさと気持ちを明日に切り替えていたが、勝った髙安は、 「えっ、勇み足? 突き落としかと思った、どうもしっくりこないな」 と憮然とした。 勇み足は八十二手に入らない非技の一つで、マゲつかみなどの反則と同じように金星にはならない、と思っていたのだ。もしそうなら、せっかく横綱に勝ったのに、報奨金10円(実際は4千倍されて4万円を、十両以上の関取でいる限り、場所ごとに支給される)はパーだ。しかし、これは髙安の完全な勘違い、思い違いだった。立派な金星です。支度部屋で報道陣から通算3個目の金星であることを知らされると、ようやく笑顔に戻り、 「これで気持ちよく明日を迎えられます。今日の相撲は自信になる」 と胸を張った。 勇み足による金星は、昭和47(1972)年春場所7日目、西前頭筆頭の貴ノ花が横綱北の富士から挙げて以来、実に42年ぶりだ。前場所では、北の富士のかばい手か、つき手かで物言いがつき、大揉めしている(これ以前にもやはり同じような物言いがつき、このときは北の富士が外掛けで勝っている)。勇み足は弾みでやることが多く、いろいろな思いがからみがちなのだ。 金星は金星を呼ぶ。この3日後の6日目、髙安はもう一人の横綱白鵬(現宮城野親方)を、今度は突っ張りから叩き込んでこの場所2個目の金星を挙げた。早くも3日前の自信が効いたのだ。よほどうれしかったのか。髙安は白鵬が大きく泳いで俵を踏み出した瞬間、右手でガッツポーズを作り、 「いけねえ。やっちゃいけないのに、思わずやってしまった。恥ずかしい。でも、相手は大横綱。勝ったことで成長できるし、(今後の)糧になります」 と反省しきりだった。 月刊『相撲』令和3年1月号掲載
相撲編集部