年金月22万円・84歳父が「新規オープンの老人ホーム」に入居も、3ヵ月後に起きた想定外に「助けてくれ!」と悲鳴
新規オープンの老人ホームだったが…
山田五郎さん(仮名・84歳)と、娘の田中由美子さん(仮名・58歳)。山田さんは50年連れ添った妻に先立たれてからひとり暮らしをしていました。しかし「最近は物騒な事件も多いし、施設に入るのも手かな」と考え出したといいます。 そんな父に、少々遠方に住む由美子さんが手を貸します。「ひとりで決めると、ろくでもない施設にしちゃうから、お父さん」と、一緒にホームを探すことに。父の年金は月22万円ほど。それで月額費用をまかなうことができればベストと考え、いくつか見て回りました。そこで、まず由美子さんが気に入ったのが新設の老人ホーム。 ――やっぱり新築は違う。雰囲気が明るいし、環境もバッチリ ――(試食させてもらった)食事も美味しかったわ よいことをあげればキリがありません。新規オープンであるものの、まだ入居者の少ない今なら、希望の部屋に入ることができます。五郎さんに「ここが絶対いいよ」と勧める由美子さん。五郎さんも段々と乗り気になり、この施設に入居することに決めました。五郎さんが選んだのは3階の角部屋。想定予算より少しオーバーしましたが、この部屋からの景色が抜群によかったのが決め手となりました。 ――ここなら、毎日元気に過ごすことができそうだ そう意気揚々とホームに入居していった五郎さん。それから3ヵ月後事件が起きます。由美子さんの携帯電話に、五郎さんから電話は入ります。第一声が「助けてくれ!」。何事かと聞いてみると、「何度も助けを呼んでも声が届かないんだよ」といいます。どこか興奮したように話す五郎さんの話は要領を得ず、「今週末、会いにいくからそれまで頑張って」と伝えて電話を切りました。 そしてその週末、由美子さんが五郎さんの入居する老人ホームに行ってみると、異様な空気に包まれていることが一瞬でわかりました。殺伐としていて、清掃が行き届いていない。以前来たときは、あんなにきれいだったのに……急いで五郎さんのいる居室に向かう途中にも異変を感じます。誰にも会わないのです。見学で来た際には、いろいろなスタッフとすれ違い、その都度「こんにちは」などと挨拶を交わしたのに。 五郎さんの居室につき、話を改めて聞くと、異変は2週間ほど前。スタッフが大量に退職したらしく、それに伴い、放置されることが多くなったのだとか。「明らかに人がいないんだ。しかもここ、3階の角部屋で、事務所から一番遠いから後回しにされて……」と五郎さん。老人ホームでありながら、孤独死するのではないかと心配になったといいます。 ウィルグループが行った『職種に対するイメージ調査』によると、大変そうだなと思う職種1位は「介護士・介護支援専門員」で55.3%。その職種を選んだ理由としては「テレビのニュースで見た」が41.3%と最も多く、「そのサービスを実際に受けたり、現場を直接見た」が29.2%、「家族・友人・知人でその職種に就いている人がいる」が24.8%、「過去にその職種で働いた経験がある」が14.0%でした。 なんとなくのイメージ(37.7%)という人もいますが、メディアを通してリアルな姿をみたり、実体験として大変さを目の当たりにしたりして、「介護士って大変」というイメージになっているようです。 そして大変なうえに薄給の介護士。厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、全145種のなかから介護関連の職種の給与をみていくと、「介護支援専門員(ケアマネージャー)」が平均年収400.5万円で102位。そして「医療・福祉施設等の介護職員」が平均年収359.6万円で122位。介護系の職種は下位に甘んじています。「大変でも給与がよければ……」そんな希望はありません。 また新規オープンの施設の場合、数人の経験者のほかは新人や職歴の浅い人たちということも珍しくありません。経験者が新人等をうまくフォローできればいいのですが、経験者と新人等の間に溝が生まれ、大量離職に繋がるケースは珍しくないといいます。 五郎さんのその後。由美子さんまじえてホームの今後について聞いてみると、「もうすぐスタッフが入るから」との説明。しかしそのもうすぐがいつかわからなかったので、「もうここにはいられない」と、退去することに決めたといいます。 [参考資料] ウィルグループ『職種に対するイメージ調査』 厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』