スーツを着て登山やスキージャンプに挑戦する社長が伝えたい「おもてなしの心」
◇いざスーツの可能性を広げる旅へ! 多くの人からの注目を集めつつも確かな製品の提供をしていくことで、知名度と信用度をアップすることにつなげた佐田。しかし、会社業績の好調が続くなかで、予想外の次なる一手を打つことになる。 「さらにオーダースーツSADAを広めていく手段を考えていたときに“これからは動画マーケティングの時代だ”という話を社員から聞いたんです。そこからさらに、YouTubeでスーツの機能性や耐久性を証明するコンテンツを配信したらどうか? という話で盛り上がりました。すると、山登りが趣味である私が、いつの間にかスーツで富士山を登頂することが決定していたんですよ(笑)」 佐田がスーツで富士山登頂を決意したのは、2013年のこと。ちょうど富士山が世界文化遺産に登録された年であり、話題性も抜群だったという。 「実際には、スーツだけでなく、革靴でビジネスバック片手に富士山を登りました。正直に言うと、初めは全然やりたくなかったんですよ。“山を舐めるな”のような批判の声も出ることは予想できたし、なにより体力的にツラいのは目に見えていましたから。それでも、恥をかいたとしても死ぬわけではないので、また“茨の道”を行くことに決めました」 実際の反響は、どうだったのだろうか。 「予想を超えた好評の声をもらい、多くのメディアに“こんな変わった社長がいる!”と取り上げてもらいました。しかし、話題になってしまったものですから、社員から“次はどこ行きます?”と聞かれて……」 2024年現在も、佐田のYouTubeチャンネルには、ビジネススーツでスキューバダイビングやサーフィンをする姿などが配信されている。 「東京マラソンにも勝手にエントリーされていて、スーツと革靴で走りました。うちのスーツだけならともかく、“革靴でマラソンは機能的に無理だよ”と社内で意見を出したら“今は走れる革靴があるから大丈夫!”と言われたんです。 実際にメーカーに電話し、マラソンを走り切れるかと質問すると“そんなわけない”と怒られてしまいました(笑)。しかし、実際には無事ゴールができたので、むしろ広告になるのでは? と思いメーカーへ報告したら“そんなことやらないでください!”とさらに怒られました」 さまざまなチャレンジのなかでも、スーツでスキージャンプを飛ぶ動画が衝撃的だったと話すと、こんな裏話を教えてくれた。 「私たちのスーツを着用してくれているスポーツ選手に、スキージャンプの第一人者・葛西紀明さんがいるんです。葛西さんが話題になっていたとき、案の定というか……社内で“社長も飛べるでしょ?”と声が上がったんです。 そして、じつに15年ぶりにスキージャンプへチャレンジしたものの、力が全然足りなくて、体を操れないまま着地に失敗してしまいました。結果的には『スキージャンプに失敗してもスーツは破けない!』という面白い動画になったのですが、私自身は擦り傷だらけで、1か月以上は風呂に入るときに痛みで苦しむ生活を送っていました(笑)」 ◇スーツは世界共通「最上級のおもてなしアイテム」 どのようなところにでもスーツで出かけてしまう佐田。最近のスーツ離れについて、どのように思うのかを尋ねたところ、そもそも日本人がスーツを着る意義について語ってくれた。 「この会社を通じて、私は“なぜ日本人がこんなにスーツを着る国民になったのか”を、皆さんに思い出してもらいたいと思っているんです。前提として、スーツは『最上級のおもてなしアイテム』として、世界共通の認識があることを知っておかなければなりません。 実際に、首脳会談では各国のトップがビジネススーツを着て出席しています。ほか、フランクで自由なイメージがあるスティーブ・ジョブズ(Apple創業者)でさえ、大事な顧客に会うときはスーツをビシッと着こなしていたと聞きます。そんな世界に通じるマナーであるスーツを、おもてなしの心を持つ日本人が放っておくわけがないんですよね」 先ほどまで笑顔だった佐田が、まっすぐな目をしながら話を続ける。 「しかし、最近はドレスコードにスーツを選択しない風潮がありますよね。このままだと、いくら日本におもてなしの心があったとしても、世界と渡り合うときのスタートラインにすら立てない可能性があるんです。おもてなしの心をもつ日本人は、スーツが世界で認められるドレスコードであることを思い出す必要があると考えています」