キリン、ネット広告疲れ対策 ビール体験型施設でリアルへ回帰
「消費者一人ひとりが(商品やブランドの)ストーリーに共感できるから売れる時代になった。大手メーカーの商品なら売れるわけではない」。キリンビール傘下でクラフトビール事業を手掛けるスプリングバレーブルワリー(東京・渋谷)の井本亜香社長は、5月下旬に開いた記者会見でこう話した。 【関連画像】スプリングバレーブルワリー東京の1階では醸造設備を見ながらクラフトビールを楽しめる(写真=キリンビール提供) キリンビールは東京・代官山のクラフトビール専門店「スプリングバレーブルワリー東京」を約9年ぶりに改装オープンした。常時12~15種類のビールをそろえ、コース料理も提供する。 醸造設備を備えた2階建ての施設で、改装によってターゲット層ごとにフロアとサービス内容を変えた。想定客単価は1階で3500円、2階で7000~1万5000円と差をつけている。 1階はカジュアルなビアバーで飲み比べをしたり、軽食を楽しんだりできる。横幅6メートルの大型ディスプレーに日本の風景映像を流すなどして、クラフトビール初心者でも気軽に足を運びやすい雰囲気を演出した。 2階はクラフトビールを飲み慣れた人向けで、専門スタッフが日本では珍しい種類のビールなどをコース料理と共に提供する。腰を据えて自分好みのクラフトビールを探す奥深さを楽しんでもらう狙いだ。 ●コロナ禍に進んだ「ネット広告疲れ」 スプリングバレーブルワリー東京は2015年にオープンした。小規模ビール醸造所を併設した飲食店として話題を集めたが、20年以降は新型コロナウイルス感染症の流行により営業時間短縮などを余儀なくされていた。 コロナ禍で体験型施設は業界を問わず営業自粛や閉鎖に追い込まれた。消費者との接点をつくるためにネット広告を強化し、電子商取引(EC)販売に軸足を移す動きが近年広がっている。 だが多くの企業が注力したことで、オークション形式で決まるネット広告の掲載費用は高騰。ある消費財メーカーのマーケティング担当者は「費用対効果は年々悪化している」と明かす。何度も表示される広告に消費者が嫌悪感を抱く「広告疲れ」という単語も登場した。 ネット広告を取り巻く環境が変化したことに加え、コロナ禍の影響が一巡したことで体験型施設が相対的に再評価され始めている。クラフトビールのような、まだなじみの薄い商品は特に消費者の「体験」が今後の購買行動を左右する。 スプリングバレーブルワリーの井本社長は「(ネットを通じた)情報だけでなく、消費者が自分で経験して納得することが重要になる」と説明する。