効率主義は近い未来に顧客を失う。人口減の日本において必要な人材とは? ビジネス書作家が小説を通して伝えたいこと(レビュー)
著作累計230万部を超えるビジネス書のカリスマ・和田裕美氏が満を持して上梓した新作は、なんとお仕事小説! 人材派遣会社を舞台に、新入社員の初芽が、パワハラやセクハラの横行する会社にメスをいれていく奮闘記だ。社会で働く意味とは? いつかきっと、人生は逆転できると勇気をもらえる一冊だ。和田氏に本作を描くきっかけ、そして現代社会のビジネスへの思いを伺った。 ***
■効率を求めすぎることで、近い未来にたくさんのお客さんを失うことにつながる。これから会社にとって必要な人たちとは?
──和田さんの小説第一作『タカラモノ』は親子の物語でしたが、2作目で「会社」を舞台にしたお仕事小説を執筆したきっかけはなんですか? 和田裕美(以下=和田):最初は双葉社の担当編集、田中さんに「次はお仕事小説でも」と提案されたのがきっかけです。ただ、いざ書くとなったときにこれからは働き方が変わるのではないか? というか、変わっていく必要があるのでは? という思いを物語に投影しようと決めました。結果主義、生産性だけでは人の心は癒されないと強く思っていたからです。 ──この作品を作るときに、苦労したポイントや、書いていて楽しかったシーンなどがあれば教えて下さい。 和田:わたしが生きている現実のビジネス世界はまだまだ、効率、生産性、スピードが重要とされています、ビジネス書もしかり。つまり、小説の内容はわたしの理想であって、現実は真逆です。器用ではないので、毎日のメルマガを書いたり、講演したあとに小説を書く──となると、脳の発想を変える必要があるのですが、なかなか切り替えることができなくて、それがなにより私を悩ませました。けれど、年齢も性別も違う登場人物の心情を想像して言葉にする作業は、そんな悩みを吹っ飛ばすほどいつもわくわくさせてくれました。 ──主人公の初芽が“AI推進部”という、会社の「使えない社員」ばかりが集められた部署に異動するところから物語が始まります。ビジネス書を数多く手がけてきた和田さんが、AI推進部メンバーのような“スポットライトの当たらない人物”を主人公にしたのはなぜですか? 和田:生産性ばかりが問われる社会では、そのルールにそぐわない人たちは「仕事ができない」と決めつけられてしまうことへの疑問がまずありました。人はみんな違う、それぞれの成長スピードも価値観も違う。多様性を声高に叫ぶわりに評価基準だけ古いままだと人口減のこの日本で会社って存続しないのではないか? と思っています。 これから大切にしないといけない社員は、末長く会社のファンになってくれるお客さんを作れる人たちです。それを伝えたいと強く思ったんです。この日本にはもう、あまり時間がありませんので。 ──ビジネスの社会では常に競争を強いられますが、本作ではそれに対して抗う行動をとるような、利他的な優しさを持つ人々が描かれています。「効率の良さ」と「人への思いやり」を、和田さんはどのようなバランスで実践していこうと考えていますか? 和田:おそらく読んだ方のなかには「こんなのはきれいごと」と捉える人も多いかと思います。現実的にはそうでしょう。生産性を上げて売り上げを伸ばさないと企業が存続できないことはみな理解しています。 けれど、しだいに社会は変化していきます。効率を求めすぎると心のこもった対応に割く時間は皆無となります。それは近い未来にたくさんのお客さんを失うことにつながるのです。だからこそこれから会社にとって必要な人たちは効率主義ではなく、時間がかかっても目の前の人を幸せにしたいと思っている人たちだと考えます。