眞栄田郷敦とWurtSが語る、「表現の世界」で生きる決心をした瞬間
「マンガ大賞 2020」受賞を始め、「みんなが選ぶTSUTAYA コミック大賞2018ネクストブレイク部門」大賞など数々の漫画賞に輝いた、山口つばさによる傑作漫画『ブルーピリオド』がついに実写映画化。周りの空気を読み、ソツなく器用に生きてきた高校2年生・矢口八虎。ある日、八虎は1枚の絵を通じて初めて“本当の自分”をさらけ出せたと感じ、美術にのめり込み、東京藝術大学を目指して奮闘する──。本作の主演を務める眞栄田郷敦と、主題歌を担当したWurtSを迎えて対談を実施。映画の魅力を語ってもらうだけでなく、“お芝居”と“音楽”という異なる表現の世界で活躍する2人の向き合い方にも迫った。 【写真ギャラリー】眞栄田郷敦、『ブルーピリオド』の名場面シーン RSJ:累計発行部数700万部を超える人気漫画『ブルーピリオド』の実写映画が完成しました。まずは、お二人が思う今作の魅力を教えてください。 眞栄田:僕はアニメで『ブルーピリオド』を知りまして。最初に興味を持ったのは、何の知識もなかった高校生が美術に魅了されて、東京藝大を目指すところでした。世間からするとマニアックというか、比較的に深く狭い世界だと思うんです。そこにフォーカスしているのが面白いと思いましたね。“正解のない世界”だからこその葛藤や喜びがビシビシ伝わってくる。ただ、人によってはこれを見て「好きなことやろう」と思えない人もいるかもしれない。それだけ表現する人の苦しみも色濃く描かれている。そういう意味でも、考えさせられる素晴らしい作品だと思います。 WurtS:試験の場面が度々出てきますけど、やっぱり“試験中の音”って独特だと思うんです。特に美大の試験は他と全く違う音がするんですよね。静かな空間で筆を使う繊細な音と、独特な緊張感。そこを『ブルーピリオド』は見事に表現されているから、自分も作品の世界にスッと入り込める。音の魅力が詰まっている作品だなと思います。 RSJ:映画をご覧になってどう感じましたか? WurtS:実写映画化されたことで、作品の世界観がより広がったことにグッときて、イチ原作ファンとしても嬉しかったです。一方で、映画を観る時はすごく緊張しまして。僕が主題歌を担当した「NOISE」は本編が終わった後に流れるので「映画の読後感や余韻を楽しめる楽曲にできているかな?」という不安もあったんです。いざ、映画を観させていただいて、ちゃんと作品の雰囲気に合う楽曲が作れたなって。自信を持っていい曲ができたな、と感じました。 眞栄田:映画全体のテンポ感を含め、僕が演じた主人公・矢口八虎にかなり寄り添った内容になっていて、とてもトライしている作品という印象を持ちました。その攻めている感じも後半に効いてきますし、何よりエネルギーやパワーをもらえる作品になっていると思いましたね。 RSJ:1枚のキャンバスを通して自己表現をする姿には、同じ表現者としても刺さるものがあったのかなと思います。 眞栄田:そうですね。劇中に出てくる「自分の好きなことに人生の一番大きなウェイトを置く、これって普通のことじゃないですか?」という言葉は、当たり前のようで「みんながそうできるか?」と言ったら実際はかなり難しい。その本質的なことを突いた言葉は、この作品を象徴しているとも言えますし、とても考えさせられる印象的な一言でしたね。 WurtS:個人的には“葛藤”の部分をこの作品からは強く感じまして。葛藤を抱いたところから、八虎たちがどんどん成長していく姿を楽曲のテーマにしよう、と。それで書いたのが「NOISE」なんですけど、曲のイメージ自体は今回のオファーをいただく前からあって。 眞栄田:あ、そうだったんですか。 WurtS:はい、僕が音楽活動を始めた頃に抱いていた“自分の殻を破りたい”という感情から生まれているんです。ある日、夢を見たんですよ。僕一人が「まだかまだか!」と必死に走っていた。目が覚めて「あれは葛藤から成長して何かを成し遂げたい、という気持ちの表れじゃないかな」って感じたんです。そんな自分の気持ちと作品を照らし合わせた時に、リンクした“葛藤”と“成長”を軸に楽曲を書きました。ちなみに、僕の楽曲には間奏がほとんどないんですけど、今回は間奏部分から最後のサビに向かって進んでいく感じが、まさに葛藤から成長に向かう様子を表せていると思いまして。僕には珍しく、あえて間奏を入れたのがポイントですね。 眞栄田:おっしゃる通り、「NOISE」は葛藤しながら自分の好きなことや決めたことに向かっていくエネルギーを感じました。それとサビの<まだか?不確かな夜を抜け>もそうですし、全体的に言葉のチョイスが面白いなと思っていて。 WurtS:ありがとうございます。<まだか>というのは、音楽を作っている時に音が降ってくるのを待つという意味の<まだか>であり、葛藤を乗り越えた先にあるゴールに対して<まだか>という2つの意味を込めました。 眞栄田:なるほど。お話を聞くと、また聴こえ方が変わりそうですね。