眞栄田郷敦とWurtSが語る、「表現の世界」で生きる決心をした瞬間
気づいたら夢中で絵を描いていました
RSJ:本作は個性豊かなキャラクターだけでなく、劇中に登場する絵画も大きな存在感を放っています。眞栄田さんはクランクインの約半年前から、ロケ地の一つにもなった新宿美術学院で絵の練習をされたとお聞きしました。絵を描き始めて6時間の間、一度も席を立たず水も飲まず、ひたすら絵に打ち込まれたそうですが、どのような心境で描かれていたのでしょうか? 眞栄田:これまでに味わったことのない新しい感覚がして面白かったし、気づいたら夢中で絵を描いていましたね。そもそも僕は、美術館とかどこかで絵を見た時に、作品から何かを感じる人ではなかったんですよ。でも、役作りを通してデッサンの技術だったり、美大で教わる技法だったりを多少なりとも学んだことで、絵を見るのが楽しくなったんです。同じものを見て描いていても、人によって捉え方が違いますし、キャンバスに落とし込んだ時の個性も異なる。これはとても奥が深いなって。 RSJ:キャンバスに向かう八虎の姿は、言葉を発していないのに、自身の心情を雄弁に語っているように感じました。 眞栄田:八虎が絵を始めてから受験までの成長が描かれているので、キャンバスに向かう姿勢だったり画材の扱い方だったり、被写体の見方がどう変わっていくのかを、グラデーションで見せることに、かなりこだわりました。あとは、八虎が初めて自分の考えや感性を表現した絵(「緑」)を描く様子と、藝大の試験である種のゾーンに入ってる雰囲気を大事にしていて。それぞれ違うゾーンではあるんですけど、原作でも印象的だったので、そこは強く意識しました。 WurtS:実は、僕も高校生の頃に美術部に入っていまして。「絵を描く時はこういう感じなんだ!」と発見がありましたね。 RSJ:美術部時代に作品を作られていた時と、音楽を作られている現在を比べて、共通する部分はありますか? WurtS:美術部の時はただ楽しいだけでモノ作りをしていたけど、音楽を作ることは仕事でもあるし、自分の好きだけじゃなくていろんな感情の中で作り上げていて。ふと「正解ってなんだろう?」と考えることがあるんです。突き詰めていくと、高校時代の好奇心だけで動く感情みたいなのが、結果としてみんなから評価されていると気づいたので、好きを突き詰めるのは、今も変わらず持たなきゃいけないことだと思います。 RSJ:眞栄田さんはアメリカで生活をされていた時、サックスに出会って、帰国されてからも音楽に打ち込んでいた時期があったそうですね。音楽に打ち込んでいた時と、絵に打ち込むことって何か共通するものはありましたか。 眞栄田:音楽は自分が好きでやっていましたけど、それを極めようとしたら、音楽を嫌いになってしまう瞬間もあって。映画の中でも描かれている努力だったり才能だったり、正解のない世界での葛藤や苦しみは、自分の経験ともリンクしました。一方で、自分の表現が認められた時の喜びとやりがいも似ているものがあって。自分の経験と過去に抱いた感情を思い出しながら、お芝居に反映させていたのはありますね。 RSJ:先ほど眞栄田さんが「ゾーンに入る」と言っていましたが、WurtSさんも曲を作りながらゾーンに入る瞬間はありますか? WurtS:基本的に曲はすぐにできる、って言うと語弊があるかもしれないですけど、気づいたらできてることが多くて。家にこもって制作すると、あっという間に次の日になっていて。「こんなに時間が経っていたんだ!」と驚くことはあります。これがゾーンなのか分からないですけど、音楽を作る時はのめり込んじゃいますね。 RSJ:ゾーンに入るための方法はあります? WurtS:仕事として考え過ぎずに「こういう音が好きだな」とか、映画など他の作品に触れて「この部分いいな。自分ならどう表現しようか」と好奇心から曲作りが始まるようにしています。 RSJ:八虎たちが通う美術予備校の講師・大葉真由(江口のりこ)が「自分なりの絵を見つけるには、いろんな人の作品を見るのが一つの方法」と言っていましたが、お二人は自分のスタイルを見つけるまでに模索したことや、誰かをお手本にされた経験は? WurtS:特定の人をお手本にするというより、先輩の音楽であったり流行りの音楽であったり、いい部分はどんどん吸収したいなと思います。 眞栄田:芝居で自分らしさを考えたことはないですね。自分らしくしないのが、役者な気もします。ただ、仕事を始めて最初にすごいなと思ったのは、綾野剛さん。映画『日本で一番悪い奴ら』が大好きで、直接的な影響や自分のスタイルの参考とかではないですけど、素敵な方だなと思いました。 RSJ:お二人は今日が初対面だそうですね。 眞栄田:そうなんです。曲調やプロフィールから、オシャレでイケイケな方かと思っていたんですけど、実際にお会いすると非常に柔らかい方で、とても安心しました(笑)。 WurtS:ハハハ、よく言われます。僕は「うわ、本物だ!」と興奮しちゃいました。 眞栄田:質問してもいいですか? 「NOISE」に出てくる<君>って誰を指しているんですか? WurtS:自分自身を指していますね。 眞栄田:あ、なるほど。鏡の自分ってことか。 WurtS:はい、なんか……歌詞を解読されるのって恥ずかしいですね(照笑)。 眞栄田:ハハハ。分かりやすい主題歌を書かれる方もいるじゃないですか。ところが「NOISE」の歌詞は一筋縄ではないというか、読み解きたくなるし、面白いですよね。 WurtS:僕は自分の感情を表に出すのが苦手なんです。言葉よりも音楽的というか、言葉と言葉じゃない音の気持ち的な部分で歌詞を書くことが多くて。曲によっては文章になっていなかったりするんですけど、僕の中ではそれが自分らしさなのかな、と思ったりもします。 RSJ:ちなみに「これがあなたらしいよね」と言われたことってあります? WurtS:オリジナル曲もそうですし、楽曲提供をさせていただいた時も「言葉選びがWurtSらしい」と言われることがあって。先ほども言ったように、あまり文章になっていない言葉というか、気持ちとして出てきた言葉がWurtSらしさかなと思います。 RSJ:特に、皆さんはどの辺にWurtSらしさを感じるのでしょう? WurtS:歌詞で言うと、眞栄田さんも仰ってくださった<君>の部分ですね。特定の人に対して<君>を使うこともあるんですけど、僕は過去の自分に重ねることも多いです。 眞栄田:僕の中で「NOISE」の<君>は、目の前にある美術だとか絵に向けて書かれているのかなと思いました。不確かだし不安定だけど、でも一番のやりがいだから<君となら乗り越えられる>だと思ったんですけど、WurtSさんの話を聞いて「そういう見方もできるのか」と納得しました。 RSJ:眞栄田さんが「ここが眞栄田さんらしいよね」とか「これが眞栄田郷敦の芝居だよね」と言われたことは? 眞栄田:「目の強さが印象的」とは言われますね。でも、芝居で自分らしさは求めないようにしています。逆に、自分らしくないようにするというか、同じようにならないようにする方が強いですね。