【相撲編集部が選ぶ九州場所13日目の一番】豊昇龍、執念のとったりで1敗死守。V争いはフィナーレの大関対決で決着へ
豊昇龍(とったり)大の里 まさに、執念の1勝だ。 豊昇龍が大関同士の対戦で、難敵大の里を相手に土俵際の逆転で白星をつかみ、1敗を守った。 豊昇龍は、大の里に対しては初顔から右からの下手投げで3連勝しており、その時点では「大の里キラー」という面もあったが、先場所は突いて出られて一方的な黒星。攻略法をつかまれた感じもあり、大の里は一気に安心できない相手となっていた。 果たして、この日も大の里は立ち合いから突き放しにきた。一方、豊昇龍も、今場所いい流れを作っている突きからの立ち合いを選択。この勝負は、大の里の左足が立ち合い少し滑った感じもあり、豊昇龍のほうが勝った。東土俵にまず攻め込む。 結果からすると、このとき、先手を取って攻めていたことが豊昇龍には大きかった。大の里はそのあと右から突いて猛然と逆襲、豊昇龍は一気に土俵際まで押されるが、最初に攻め込んだ分、土俵際までの距離があり、時間と体勢にわずかながら猶予が生まれたからだ。土俵際に詰まった豊昇龍は、弓なりになりながらも、一縷の望みにかけ、突いてきた大の里の右手を引っ張りながらかわすと、大の里の体は、豊昇龍が飛ぶより先に土俵に落ちた。 追い込んだ大の里だったが ▲土俵際の豊昇龍、ここまで追い込まれながら、とったりで粘り、逆転につなげた 決まり手は「とったり」。「攻められたが、最後まで集中していた」と本人が言うとおり、危機一髪の相撲ではあったが、豊昇龍の足腰の良さ、そしてとっさの鋭い動きという持ち味が出た、ある意味では豊昇龍らしい白星だったと言える。 これでしっかり1敗をキープ。大関となってからは初めてとなる優勝へ、一つ大きなハードルをクリアしたと言えるだろう。 大の里は「雑さが出てしまった。きのうから土俵際があまりよくない」と語ったが、一応、対豊昇龍戦における突きの有効性は継続しており、来場所以降の対豊昇龍戦に自信をもって望める形は残した。あと一押しをいかにしてできるようにするか、を考えていければ、というところだろう。 この日は、豊昇龍が勝った後、もう1人の1敗大関の琴櫻も、隆の勝の右差しからの攻めを受けながらも、左からの上手投げで勝利。豊昇龍との併走状態を保った。 「(相手は)右四つでも取れますし、嫌な形にならないように、頭に入れていました。しっかり最後まで慌てずに取れた」と琴櫻。ずっと攻められてはいたが、それでも立ち合いで右差しに成功、そのあと左上手を取ったことで、手こずりはしたものの、危ないと思わせるまでの場面は許さず。こちらも、初優勝への執念が感じられる白星で、さらに言えば、隆の勝にこれだけ攻め続けられながら、危ない場面にならないという、当代の力士ではナンバーワンの「受けの強さ」を見せた、こちらも琴櫻ならではの持ち味発揮の一番だったと言える。 この結果、隆の勝が3敗に。ほかに阿炎、豪ノ山もこの日3敗を守ったが、千秋楽に琴櫻と豊昇龍の現時点の1敗同士の対戦が組まれることはほぼ間違いないので、実質的には3敗力士の優勝はなくなったと言える。 いずれにしても千秋楽の琴櫻-豊昇龍の対戦が優勝をかけた一戦になることになり、一年納めの場所のラストにふさわしいフィナーレが用意されることは決まった。が、それが「勝ったほうが優勝」という戦いになるのか、1差での対戦で「いずれかが勝てば優勝、逆の力士が勝てば決定戦」という条件になるかはまだあす次第だ。 隆の勝が実質的に優勝争いから脱落したことで、豊昇龍の14日目の対戦相手は、番付どおり霧島となった。あすの勝敗という条件だけを考えれば、大の里戦を残す琴櫻よりは、やはり豊昇龍のほうが星を落とす可能性は低いように思うが、霧島もすでに7敗だけに必死なはず。一年納めの場所のフィナーレへの舞台装置は、果たしてこの後、どういう形で整うだろうか。 文=藤本泰祐
相撲編集部