中高の先輩・関川郁万も届かなかった日本一を目指す「流経の5番」の継承者。流通経済大柏DF佐藤夢真が国立のピッチに立つ意味
[1.4 選手権準々決勝 流通経済大柏高 8-0 上田西高 フクアリ] この3年間で誰よりも努力してきた自負はある。そんな日常が実って掴んだスタメンの座。練習から切磋琢磨してきた127人の代表として、キャプテンマークを託され、憧れのピッチに立っているのだ。自分にできることのすべてを捧げて、勝ち続けていく覚悟なんて、もうとっくに定まっている。 【写真】「美しすぎ」「めっちゃ可愛い」柴崎岳の妻・真野恵里菜さんがプライベートショット披露 「今までツラい時に我慢して、頑張ってきて良かったなと。自分にはその経験もある分、悔しい想いをしている人の気持ちもわかるので、そういう人のためにも頑張らなきゃいけないなと思っています」。 流通経済大柏高(千葉)を牽引する“ダブルキャプテン”の1人。DF佐藤夢真(3年=FC多摩ジュニアユース出身)はピッチに立つことの叶わない多くのチームメイトたちの想いも背負って、みんなで目指してきた頂点の景色まで突き進む。 「早い時間帯に先制することができて、そこからも前の選手たちが点を決めてくれて、後ろとしてもゼロに抑えることだけ考えていたので、良いゲーム運びができたなと思います」。 終わったばかりの準々決勝を、佐藤は穏やかな表情で振り返る。フクダ電子アリーナに1万人近い観衆を集めて行われた上田西高(長野)との一戦は、前半13分にFW山野春太(3年)のゴールで流経大柏が先制すると、前半だけで6点を奪うゴールラッシュを披露する。 DF富樫龍暉(3年)からFW松本果成(3年)にスイッチした右サイドバック、今季の公式戦初スタメンとなった左サイドバックのDF渡邊和之(3年)、そしてともにセンターバックを務めるDF奈須琉世(3年)と4人で構成するディフェンスラインも、高い集中力をキープ。カウンターを狙う相手に付け入るスキを与えない。 試合終盤の後半32分。上田西はカウンターのチャンスを掴んだものの、いち早く“センサー”を発動させた佐藤は、完璧なカバーリングでピンチの目を完全に潰すと、駆け寄ってきた奈須とハイタッチを交わす。 「彼とは2センターバックを組んでいる分、距離も近いですし、『今はこうした方がいいんじゃないか』というふうに試合中も話し合えているので、本当にお互いが頼っている感じで、やりやすいです」(奈須) 「お互いに仲も良い分、お互いが何をしたいかもわかるので、奈須のカバーはオレしかできないですし、オレのカバーをしてくれるのも奈須しかいないですし、そこは良い関係ができていると思います」(佐藤) 2人の言葉からも“センターバックコンビ”として、“ダブルキャプテン”として、築き上げてきた絆の強さが滲む。ファイナルスコアは8-0。準決勝進出を、国立競技場で戦う権利を手繰り寄せ、佐藤の表情にも笑顔が広がった。 「自分はシーズンの最初はBチームだったので、『奈須と一緒に試合に出たいな』とはずっと思っていましたし、そういう時期もあって、今はこういう選手権の大舞台で一緒にプレーできていることは、本当に嬉しいなと思っています」。 本人もそう話しているように、シーズン前半戦の佐藤はプリンスリーグ関東2部を主戦場に置くBチームのキャプテンとして、日々のトレーニングと向き合っていた。プレミアリーグを戦うAチームは開幕から7戦無敗と好調をキープしていたものの、Bチームはインターハイ予選までの6試合でわずかに1勝。チームとしても、個人としても、苦しい時間を強いられる。 「前期は自分としてもずっとキツかったですね。流経はプレミアのチームもプリンスのチームも一緒に練習しているので、プレミアの選手たちは練習でもずっとモチベーションが高かったですし、自分はプリンスでずっと負けていて落ち込んでいる中でも、キャプテンとしてそういうモチベーションの高い選手たちも引っ張っていかないといけないという中で、本当にキツかったなと思います」。 ただ、地道に重ね続けた努力の価値を、榎本雅大監督はしっかりとわかっていた。6月下旬に昌平高(埼玉)と対峙したリーグ戦でスタメンに抜擢された佐藤は、チームの勝利にフル出場で貢献。後半戦はそれまでセンターバックのレギュラーを務めていた富樫の負傷離脱もあって、少しずつ定位置を掴んでいく。 この日の全国大会の準々決勝という晴れ舞台でも、キャプテンマークを巻いて堂々とプレーした佐藤に対し、榎本監督は「存在感が出てきていますね。どっしりしていますし、彼がいるのは大きいです。もう言うことないですよ」と絶賛。奈須も「今日も一緒にしっかり無失点に抑えられたので、そこは良かったかなと思います」と笑顔を見せる。 「やっぱりツラい時でも、目先のことだけではなくて、常に先のことを考えて行動してきました。『今は試合に出れていないから』と考えるのではなくて、『最後の選手権で自分がピッチに立てていればいい』と思って、目の前のやれることを頑張っていたので、それが良かったのかなと思います」。そう言い切れるキャプテンが、チームメイトから信頼されていないはずがない。 FC多摩ジュニアユース出身の佐藤にとって、今大会も背負っている『流経の5番』は特別な番号だ。「自分は郁万くんに憧れて流経に入ってきたところもあるので、同じ番号を背負えて光栄だと思います。1年から5番は付けさせてもらってきたので、本当に好きな番号ですね」。 FC多摩ジュニアユースの、流経大柏の先輩であり、高校2年時から『流経の5番』のユニフォームを纏って、第96回大会、第97回大会と連続で選手権ファイナリストになっている関川郁万(鹿島)はかねてから憧れてきた存在。ただ、あと2つ白星を重ねれば、偉大な先輩が高校時代に残した成績を超えることになる。 その前に、まず挑むのは準決勝。「自分としても初めての全国ベスト4で、初めての国立ですし、みんなここからは知らないゾーンに入ってやることになるんですけど、そこに対して変にビビらずに、自分たちの良さを出していけるような試合にしたいと思います」。そう話した佐藤は、自分が『国立競技場のピッチに立つこと』の意味をどう捉えているかを、最後にそっと教えてくれた。 「やっぱりサッカーをしている人の中には、自分みたいに苦労している人の方が多いと思うので、そういう人たちのためにも、自分が国立のような大舞台で、たくさんの観客の人の前で活躍することで、今はツラい想いをしている人や、伸び悩んでいる人の助けに少しでもなったり、勇気を与えられるようなプレーができればいいなと思っています。国立、楽しみですね」。 努力がすべて報われるわけではないことも、願いがすべて叶うわけではないことも、よくわかっている。苦しい時間も、心が折れそうな時間も、十分すぎるほど味わってきた。だからこそ、そんな自分がようやくたどり着いた聖地で堂々とプレーすることで、1人でも多くの人に勇気を与えたい。卓越した人間性を兼ね備えた、流経大柏を束ねるキャプテン。国立競技場のピッチに立つ佐藤夢真の雄姿を、見逃すな。 (取材・文 土屋雅史)
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