STARTO社が「チケットの悪質転売ヤー」の身元開示請求、横行する高額転売をどうしたら撲滅できるのか?
アイドルやタレントのチケットが、個人売買の仲介サイト(転売サイト)で高額で売買されていることを受け、旧ジャニーズ事務所のタレントが所属する「STARTO ENTERTAINMENT」などは9月5日、転売サイトの運営会社に対し、悪質な出品者の発信者情報開示請求を行ったと公表した。 【画像】かわいい法被姿のなにわ男子 STARTO社のリリースによると、プロバイダ責任制限法に基づき、転売サイト「チケット流通センター」に対して、不正な転売だと思われる出品299件について、開示請求を行ったという。 チケットの高額転売が社会問題となっているのを受け、2019年には一定のチケットについて、定額を上回る価格での転売を禁止した「チケット不正転売禁止法」が施行された。しかし、依然として買占めや高額転売が多く、監視が追いついていない現状があり、ファンからは適正価格でチケットを入手できないという不満の声が上がってきた。 STARTO社によると、チケット流通センターには契約タレントの出演イベントチケットの転売が約1万件確認されたという。「なにわ男子」のイベントだけでも3000件以上の転売があり、うち100件が10万円を超えていた(STARTO社調査)。 そうした中、STARTO社は不正な転売をしている出品者の身元の解明を求めるため、開示請求に踏み切ったとみられる。不正な転売をなくすためにはどのような取り組みが必要なのか。福井健策弁護士に聞いた。
●STARTO社が発信者情報開示請求する「意義」
――通常、発信者情報開示請求は誹謗中傷による名誉毀損や、著作権などの権利侵害があった際におこなわれるというイメージが強いです。今回の開示請求にはどういう狙いがあるのでしょうか。 プロバイダ責任制限法(もうすぐ「情報プラットフォーム対処法」となります)が対象とするのは確かに「情報流通による権利の侵害」ですが、この「権利」はかなり広く「民事上の不法行為等の要件としての権利侵害に該当するもの」とされています(総務省「逐条解説プロバイダ責任制限法(2023年)」4頁)。 よって知的財産権や人格権だけに限らず、例えば他の財産権も法的には対象となります。 さて、STARTO社などが主張するチケットの高額転売の場合、通常は転売目的だとわかっていれば主催者はチケットを売りませんね。つまり主催者は騙されているということになります。 そのため、過去にはチケット不正転売禁止法への該当の有無にかかわらず、転売の目的を隠してチケットを購入した者が主催者側への詐欺罪を問われて摘発された事例や、有罪判決を受けた事例が相当数あります。このように不正目的での購入はそれ自体が犯罪にあたり得ます。 もっとも、今回の情報開示請求の相手はチケット転売サイトです。よって、チケットの買占め行為ではなく、こうしたサイトでの情報流通(転売情報の掲載)自体が、権利侵害である必要があります。 ここではいくつかの可能性が考えられますが、もっともストレートな例を挙げれば、主催者への業務妨害でしょう。 主催者からすれば、ファンが公正な方法でチケットを入手できない事態はそれ自体が大変困った状況です。また、こうして不正に入手したチケットは規約違反で無効とされる可能性が高く、その場合は購入しても入場できません。 入場できないチケットを売りに出す行為は転売サイトを舞台とした購入者への詐欺でもありますが、同時にそうした潜在的に無効なチケットが多数売りに出されては、窓口をはじめ主催者の業務は混乱しますね。現に、転売チケットへのファンの目は厳しい中、受付での主催者側の対応はしばしば困難を極めます。 以上から、そうした不正転売の出品者によるSTARTO社などに対する偽計業務妨害が成立する可能性があります。業務妨害は犯罪でもあり、同時に主催者に対する不法行為でもあります。よって、不正転売チケット流通による業務妨害という形で権利(営業活動)を侵害された者として、主催者が発信者情報開示請求をおこなうことが考えられるでしょう。 裁判所が認めるかは、個別事案にもよりますので断言はできませんが、現在の被害の深刻さを考えれば、開示請求の意義は十分あるように思えます。