ここにきて「不景気」「ヤバい」と話題になっている「韓国の縦読み漫画業界」の「意外な実態」
「原点回帰」としてのインスタトゥーンの台頭
日本ではウェブトゥーンといえば「スタジオ制作」というイメージがいまだ強いが、作画クオリティ競争やNAVERやカカオといったプラットフォームが公式連載作品に対して求める「最低週1回、40コマ以上」といった更新頻度や物量のノルマを厭う個人作家たちは、自分のペースで創作できるインスタやFacebook上で活動する傾向も見られる。 『漫画産業白書』によればウェブトゥーン作家の制作方式は単独制作(39.3%)、アシスタント作家がいる単独制作(19.0%)、作家との共同作業(12.9%)、補助作家を一時的に雇用した単独制作(11.5%)、制作会社所属(8.0%)である。 2023年12月5日にInstagramは韓国市場向けに有料サブスクリプションモデルを導入し、フォロワー数1万人以上のクリエイターが有料購読者向けコンテンツを提供できるようになった。これによってインスタ上で漫画を連載する「Instatoon(インスタトゥーン)」への注目度がさらに高まっている。インスタでウェブトゥーンを読むと答えているユーザーが2割もいるし、インスタで話題になってドラマ化された『ミョヌラギ』のような作品もすでにある。 さらには、掲載媒体や連載の配信作品数が限られている韓国のウェブトゥーン・プラットフォームでプロとなるのではなく、「日本でマンガ家デビューしたい」と語る大学の漫画系学部・学科の在籍者・卒業生も増えている。 もともとウェブトゥーンは、紙の漫画雑誌やスポーツ新聞(韓国では新聞にも長編ストーリー漫画が連載されるのが当たり前だった)ではなかなか活躍できなかったカン・プル(ディズニープラスでドラマ化された『ムービング』の作者)のような作家が、個人サイト上で連載するやいなや大注目されて一発逆転を果たしたことが、NAVERなどのポータルサイトが手を出し始めるきっかけのひとつだった。 今ではNAVERやカカオのウェブトゥーン・プラットフォームのほうが、かつての雑誌や新聞のような立場の強い媒体になってしまった。そしてそこでは、企業の組織力と資金力を活かして制作した、ハイクオリティな作画のウェブトゥーンでないと、なかなか戦いにくくなってきている。 だからこそ、再び個人作家の個性を発揮できる場が求められている。個人作家がシンプルな絵柄でマイペースに描くことが少なくないインスタトゥーンへの注目の高さは、ある意味では原点回帰なのである。 正確には、個人作家による自由な創作への志向と、スーパーIPやグローバル・プラットフォームとしての競争に勝利することをめざした企業・資本によるブロックバスター作品に二極化していると言うべきだろう。 プラットフォーム、制作スタジオ(CP社)、個人作家それぞれの思惑が必ずしも合致しない状態で、それぞれが成長と変化、転身や出口を模索している状態が現在の韓国ウェブトゥーン業界なのだ。 中編記事『じつは韓国よりも日本のほうが「人気ジャンルの幅が狭い」…ウェブトゥーン(縦読み漫画)業界における「日韓の違い」』へ続く。
飯田 一史(ライター)