アディダスの古着のトラックパンツ【栗山愛以、モードの告白】
身にまとうものには、その人の思いや考え、ときに主義や信条や、生きる時代の空気までも映し出されるもの。自他ともに認める稀代のモード愛好者、ファッションライター・栗山愛以が、自らの装いや物欲の奥にあるものを、ゆるゆると紐解き覗き込む 【画像】栗山愛以、モードの告白
以前お伝えしたように、筋金入りのインドア派で、運動には全く縁がありません。が、先のオリンピックは毎年2回ファッション・ウィークの取材に行く愛着のある街、パリで開催されていたことからちらちら観ていました。とくにマラソンは、パリ市庁舎やアンバリッドといったおなじみのショー会場に加え、オペラ座やコンコルド広場に近い定宿周辺の見慣れた風景が流れて楽しい。そうして競技の行方を追っていると、やはり職業柄、選手が着ているユニフォームが気になってきます。あらゆる有名スポーツブランドのロゴが躍っているのを見ながら、そういえば私はどこが贔屓なのかな、とぼんやり思いを巡らせたのでした。 機能性開発の頂上決戦の場であるオリンピックを引き合いに出しておいて恐縮なのですが、運動するわけでもなく着心地にも関心がない私が重視するのはデザインのみです。クローゼットを見回すと、一番持っているのはアディダスのスリーストライプスのアイテムなのでした。 スポーツウェアをファッションとして楽しむのはもはや普通のことですが、歴史を振り返れば、「テニスシューズ」が「スニーカー」と呼ばれるようになって市民権を得たのは、1973年にアディダスが人気テニス選手の名を冠した「スタンスミス」を販売した頃から。80年代にはRUN-D.M.C.を中心にヒップホップの世界でアディダスのスニーカー「スーパースター」やスリーストライプスのトラックスーツが「ストリートウェア」として脚光を浴びます。 そして、個人的に思い出深いのは、「アディダス」をテーマに掲げた2001-02年秋冬ヨウジヤマモトでしょうか。スリーストライプスが走るアシンメトリーなシルエットの服と「アディダス フォー ヨウジヤマモト」のスニーカーが登場し、モードの世界にこんなに大胆にスポーツを持ち込むとは!と驚いた記憶があります。発売当時私は神戸の百貨店内のコム デ ギャルソンで販売員として働いていて、同じエリアにあるヨウジヤマモトの店舗を横目で見ていたのですが、ライバル会社(?!)に手を出すわけにはいかないと勝手に自制し、アディダスで似たタイプのスニーカーを購入したのでした。このあたりから、ファッションブランドとスポーツブランドのコラボが多発するようになっていきます。