映画『バティモン5 望まれざる者』:フランスの闘う監督、ラジ・リが描き出す移民の町の不都合な真実
松本 卓也(ニッポンドットコム)
五輪開催を控え、いっそう華やぐフランスの都パリ。その中心から電車とバスで1時間ほどの郊外には、想像を絶する別世界が広がっている──。長編デビュー作『レ・ミゼラブル』の衝撃から4年、ラジ・リ監督の2作目『バティモン5 望まれざる者』が5月24日に日本で公開された。3月には横浜フランス映画祭で同作のジャパンプレミア上映に合わせて来日していた監督。自身が生まれ育ち、今も暮らすパリ郊外のことを正しく知ってほしいと熱く語ってくれた。
前作『レ・ミゼラブル』の衝撃
ラジ・リ監督のデビューは鮮烈そのものだった。『レ・ミゼラブル』は2019年のカンヌ国際映画祭で『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督/韓国)と最後まで最高賞のパルムドールをあらそい、審査員賞を受賞。同年末にフランスで公開されると、新人監督が撮った社会派映画としては異例の大ヒットを記録し、同国のアカデミー賞に当たるセザール賞で四冠に輝く。そのインパクトは、四半世紀前に同じく都市郊外(フランス語でバンリュー)の荒廃を描きセンセーションを巻き起こしたマシュー・カソヴィッツ監督の『憎しみ』を思わせた。 ミュージカルでもおなじみのヴィクトル・ユーゴーの名作とはまったく異なる現代の物語にもかかわらず、そのタイトルを冠した理由は、それが「社会の底辺に生きる人々」を意味することと、舞台が小説にも登場するパリ郊外のモンフェルメイユであること。パリの北東セーヌ・サンドニ県にある、フランスで最も荒廃した地区の1つだ。05年に全国の都市郊外で勃発した暴動の発火点が、ここモンフェルメイユと隣のクリシー・ス・ボワだった。 映画の『レ・ミゼラブル』は、そんな問題地区を舞台に、日常的に発生するいざこざをきれいごと抜きの“力技”で処理する私服警官たちを描いた。物語は彼らにひねりつぶされた悪童たちの行く末に不穏な予感を抱かせて幕を閉じる。「友よ、覚えておけ。悪い草などない。悪い人間もいない。耕す者が悪いだけだ」――エピローグに引用された小説の一節が観客に強烈な余韻を残した。