映画『バティモン5 望まれざる者』:フランスの闘う監督、ラジ・リが描き出す移民の町の不都合な真実
「郊外三部作」の第2弾
それから4年。この“オープンな結末”の続きが、新作『バティモン5 望まれざる者』で展開されるのかと思いきや、そうではなかった。ラジ・リ監督は、これを前作と並ぶ「郊外三部作」の1つと位置付けながら、前作の状況を生んだ“前の10年”へとさかのぼっていく(ただし、冒頭でスマートフォンを使用する様子が描かれるなど、時代設定がそこまで厳密なわけではない)。 「アイデアはすでに『レ・ミゼラブル』のシナリオを書いているときから頭にあったんだ。1本ではとても描き切れないので、三部作にしようと考えていた。ここ30年の間に郊外で起こったことを、10年ずつ3つの時代に分け、自分の体験を通じて語ろうと。『レ・ミゼラブル』は18年に起きた警官の暴力事件がベースになっているが、『バティモン5』では05年前後の“マル・ロジュモン”の問題を取り上げようと思ったんだ」 「マル・ロジュモン(mal-logement)」とは、劣悪な住環境を表すフランス語の新語で、1980年代末ごろに出現した。60年代以降に都市郊外に建てられた団地の老朽化が問題になり始めた時期だ。団地には旧植民地国からの移民労働者が多く住むようになり、文字通りスラム化が進んでいた。
タイトルの「バティモン(bâtiment)」は建物を意味し、これに数字が付くと「~号棟」となる。マリからの移民であるリ一家が実際に暮らしたモンフェルメイユのボスケ団地「5号棟」から取られている。制作発表の当初は、三部作らしく『レ・ミゼラブル』と同じ語感の『レ・ザンデジラブル』(望まれざる者)という題名だった(注:フランスと日本を除く大半の国ではこの元タイトルが採用されている)。 「撮影後にふと思い直して『バティモン5』にしたくなった。自分たちが育った建物で繰り広げられる物語だからね。よく誤解されるけど、公営の低家賃住宅じゃなくて、分譲だった。両親が何年もかけて高い金利のローンを返済し、やっとの思いで手に入れたんだ。それが老朽化したからといって、たった1万5000ユーロ(当時のレートで約180万円)の立ち退き料で追い出された。これはペテンじゃないか!」