映画『バティモン5 望まれざる者』:フランスの闘う監督、ラジ・リが描き出す移民の町の不都合な真実
政治に関心のない若者へ
これはラジ・リが “ピンポン”に例えたシナリオの共同作業に多くを負っているようだ。共同脚本のジョルダノ・ジェデルリニが監督のアイデアを整理・構成し、映画的なフォーマットに落とし込む役割を担ったという。ただし全編にみなぎるのは、伝えたいことがある、というラジ・リの気迫にほかならない。 「政治に関心のない若者にメッセージを送ること、それがこの映画を作った大きな目的だ。アビーという女性の姿を通じて知らせたかったのは、排除された人々には、やがて政治に参加せざるを得ない時が来るということ。もし私たちが政治に関心を持たなくても、政治からの影響を受けずにはいられないということだ」 この映画の背景も含めて、ラジ・リが常に思い起こすのは2005年だ。前述のように、全国の郊外で暴動が吹き荒れた年。当時のサルコジ内相(2年後の大統領)は「クズどもはケルヒャー(ドイツ製の清掃機)で一掃しなければならない」と語り、火に油を注いだ。だが、ラジ・リでさえ「確かに郊外は“ごろつき”だらけだった」と振り返る。暴力では何の解決も生まないと、若者に有権者登録をするよう働きかける団体を設立し、活動したこともあった。 「残念ながら、郊外の若者たちの政治に対する関心は低い。不満ばかり言って、投票に行こうとしないんだ。ただ、ここ数年は少しずつ変わってきた。投票しなければ自分たちの声は届かないと知るようになり、みんなで人種主義的な政治に対抗しよう、という動きが生まれつつある」 しかし05年以降も郊外の状況に著しい進展が見られないのは多くの人が指摘するところだ。 「何も変わっていない。それどころか悪化している。暴力、貧困、失業、人種差別、何もかもますます悪くなっている。最大の責任者は政治家たちだ。こうした状況を放置し、改善しようという考えを持たなかった。問題地区で起こっていることにずっと目をつぶってきた。そうする間に人種主義が蔓延し、極右が政権を握る寸前まで来ている。郊外はいまや一触即発の“火薬庫”なんだ。先週(3月中旬)もバイクに乗った若者がパトカーに追突されて死ぬ事件があった。抗議のデモが暴徒化し、近くの警察署を襲撃したんだ。まるで市街戦だった」 そんな中、昨年末にフランスで公開された『バティモン5 望まれざる者』。その反響は前作に比べてやや物足りないのも確かだ。 「『レ・ミゼラブル』ほどの成功にならなかったのは認めるけど、これがフランスの一部の人にとって“不都合な映画”であることは確認できたよ。それは前作以上に肌で感じた。政治家にとってだけじゃない。一般市民にとっても見たくない現実だ。自分たちの国には500万もの人が劣悪な住環境で暮らしている。誰の胸にも重くのしかかる問題なんだ」