世界的な和食ブームの中、インバウンドにも大人気!和食文化を支える切れ味を求めて、打刃物のまちへ
堺打刃物(大阪府)
世界的な和食ブームの中、和包丁が脚光を浴びている。家庭用にも広く使われる洋包丁の「両刃」に対し、和食のプロから支持される「片刃」が特徴だ。軽い力でスッと食材に刃が入るほど切れ味が鋭く、細胞を押し潰さないので断面は美しくうまみも逃がしにくい。素材を生かす和食において必須道具となっている。 堺市はその名産地でプロの大半が愛用者とも。堺刃物の職人たちは、600年の伝統の中で磨かれてきた強い鋼と切れ味は機械には真似できないと胸を張る。片刃構造は複雑で、表に鋭い刃、平らに見える裏には摩擦を最小限にするくぼみがある。それらは職人が一枚一枚、鋼の状態を見極め手作業で作り上げている。 遊び心を感じる、包丁の形状をそのまま模したユニークなそばぼうろ
起源は堺と出雲の玉鋼(たまはがね)が結び付いた中世のほか諸説あるが、直接的ルーツはたばこの葉を刻むための「煙草包丁」とされる。江戸時代中期には他の追随を許さない切れ味を誇り、幕府の専売にもなった。その優れた技術を引き継ぐのが和包丁だ。 難点は、刃の形状から切り口が斜めに曲がりやすく、ものを真っすぐ切るにはコツが要ること。また、鋼は錆びやすく手入れが欠かせない。 まずは扱い方を学ぼうと、慶応年間(1865~68)創業の老舗問屋、和田商店へ。6年ほど前から包丁研ぎと柄(え)付けの体験を行っている。 「和包丁は使って『育てる』もの。大切に使えば使うほど手になじんできますよ」と、専務の和田高志さん。実際に研げるようになると扱う自信がつき、愛着も湧いてくる。職人が13年使い込んだ出刃包丁を拝見すると、小さくすり減ってペティナイフほどになり、使い手の体の一部になったような温かみを帯びていた。 店は「ちん電」こと、阪堺電車がコトコト走る大通り沿い。一帯には、堺刃物の問屋や鍛冶屋、刃付け屋の工房などが40軒ほど集まっている。 徒歩すぐの山脇刃物製作所では、刃付けや銘切りの工房見学が可能。感性と経験を頼りに、職人がいかに細かな作業を丁寧に繰り返して1本の包丁を作っているか。想像以上の手間と技術に圧倒された。 堺刃物24社の包丁が見られる堺伝匠館も近い。コーディネーターを務めるエリック・シュヴァリエさんは、「職人の手仕事を好む人は世界中にいる。30年、50年と手入れして使う価値が堺刃物にはあると思う」と、誇らしげに語った。 文/はるのいづみ 写真/宮川 透 観光の問い合わせは、電話072・232・0331(堺駅観光案内所) ※「旅行読売」2024年3月号の特集「強く美しい 日本刀に導かれ」より